「鰻の成瀬」社長が語る驚きの経営戦略「鰻に触ったこともないし、究極の美味しさも求めていない」
「究極のおいしさ」は実は求めていない
――より安価な「宇奈とと」があり、牛丼チェーンでもうな重を低価格で提供している。 山本:正直、「安くてもおいしい」という声はあまり聞かない。ウチでは比較的おいしい鰻を提供できる自負がありました。鰻は専門店であることが重要。牛丼チェーンはあくまでも牛丼屋で、オプションで鰻も出している。競合とは思っていませんでした。実際、ウチのお客様が低価格のみを求めているのかといえば、一番注文が多いのはもっとも高い「うな重・松」です。 ――直球で聞きますが、山本さんは飲食業の経験もなければ、飲食への愛も感じない。鰻にもあまり興味ないですよね? 山本:はい。厨房もわからないし、鰻に触ったこともない。正確に言えば、飲食に興味がないというよりは、究極的においしい食を出そうという意識がないんです。それより、フランチャイズ(以降、FC)ビジネスを通して、携わった人々が幸福になることに関心がある。 ――正直すぎますよ(苦笑)。ちなみに、一番好きな食べ物は? 山本:……果物です。 ――そこ、「鰻」って答えるとこじゃないですか! 山本:ハッ!?(苦笑)
「人と同じ」が大嫌い。イタリアへ語学留学
――旧来の経営者とは一線を画す、山本さんの率直な〝放言〟は、時に批判を呼ぶこともあります。こうした性向は生来のものなんですか? 山本:もともと人と同じことをするのが大嫌いで、高校卒業後、イタリアに留学しました。当時、英語って誰でも話せると勘違いしていて、英語圏に留学しても特別感ゼロだし、メリットがないと思ったんです。普通に日本の大学に進学すると、上下3歳くらいのコミュニティで生きていくことになる。 でも、イタリアにやってくる日本人は、30歳前後の人が多く、星付きレストランで修業してハクをつけたい料理人、本場で修業して音楽で食べていきたいオペラ歌手、ヨーロッパ建築を学ぶ建築家……プロフェッショナルな大人ばかり。でも、彼らは一回りも年下の僕を子供扱いせず、対等に接してくれた。 ――ところが、留学を終えて帰国後、普通に就職してます。 山本:特別性を身につけるために留学したのに、帰国してみると日本にはイタリア語を生かせる場が全然なかった(苦笑)。ただ、イタリアで知己を得た人たちとの交流は続いていました。彼らはプロなので、個人として仕事をするいわば一国一城の主。僕も早くそうなりたいと、独立志向がより強くなった。