帯状疱疹について知っておきたいこと(上)ワクチンを絶対に打とうと思うワケ
医療・健康モノを取材し続けて26年の記者が、50歳を迎える誕生日当日に接種予約を入れたワクチンがある。「帯状疱疹ワクチン」だ。これまでさまざまな医者や患者に取材してきた中で「自分は絶対にやろう」と強く思ったものの一つが、帯状疱疹ワクチンなのだ。 フリーになった途端に発症…上重聡さん帯状疱疹を振り返る ■虫刺されだと思っていたら、数日後… 帯状疱疹は、顔や頭を含める体の左右どちらかに痛みを伴う赤い発疹と水膨れが生じる病気だ。世界最大規模で現在も継続中の帯状疱疹大規模疫学調査「宮崎スタディ」実施者の中心メンバー、外山皮膚科(宮崎県)の外山望院長によれば、加齢に伴いリスクが上昇。50歳を越えると急激に発症リスクが高くなり、患者の約7割を50歳以上が占めるという。 「しかし近年、20~40歳代で帯状疱疹を発症する人が増えている。考えられる理由が、子供の水痘ワクチン接種です」(外山院長=以下同) 帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)・帯状疱疹ウイルスが原因で発症する。一般的に子供の頃にウイルスに感染し、水ぼうそうを発症。水ぼうそうは通常5~7日で治癒するものの、ウイルスはいなくなるわけではなく、神経節に潜伏する。 「水ぼうそうを一度発症していると、私たちは水痘・帯状疱疹ウイルスへの免疫を獲得しています。この免疫は時間の経過とともに弱まりますが、子育て年代で水ぼうそうを発症した子供たちと触れ合い、再び同じウイルスと触れることで免疫がまた強くなります。だから、神経節にウイルスが潜伏しているとはいえ、50歳を越えるくらいまではウイルスの休眠状態を保てていたのです」 ところが2014年から1~3歳の子供の水痘ワクチンが定期接種化し、水ぼうそうを発症する子供が激減。それによって再びウイルスに触れる機会が激減し、免疫がまた強くなる“ブースター効果”を得る機会も激減した。つまり、ウイルスの休眠状態を50歳まで保ちにくくなった。 「これまでは帯状疱疹を発症するリスクが低かった世代でも、疲労、ストレス、病気など免疫力が低下すると帯状疱疹を発症するようになった」 帯状疱疹はつらい病気だ。50代の女性は「単なる虫刺されだと思っていたら、数日後に額から頭頂部にかけてわーっと針で刺されるような激痛に襲われた」と話す。帯状疱疹がきっかけで顔面神経まひに至る人もいる。ちなみに顔面神経まひは、カナダ出身の人気歌手、ジャスティン・ビーバーがその症状を「こっちの目はまばたきできないし、顔のこっち側では笑えない」とSNSで訴えている。 ■50代以上の患者の2割に痛みが年単位で継続する合併症 「帯状疱疹が厄介なのは、その痛さもさることながら、重篤な合併症を引き起こすことです。神経節は体のあちこちに走っている。どこに潜むウイルスが再活性化しているかで症状が出る部位が異なるのですが、顔面に発症すると顔面神経まひ、味覚障害、視力の低下、最悪の場合は失明の危険もある。腹部であれば腸閉塞、臀部や陰部であれば排尿障害を合併する場合もあります」 帯状疱疹には、皮膚症状が消えた後も痛みだけが続く「帯状疱疹後神経痛」という合併症もある。50代以上で発症した人の2割が帯状疱疹後神経痛に移行するという報告もあり、治癒まで年単位で期間を要することは珍しくない。記者の知人(60代)は、帯状疱疹後神経痛で服が触れただけでも激しい痛みを感じるようになり、現在も治療継続中だ。 帯状疱疹は水ぼうそうにかかったことがある人なら全員にリスクがある。ただ予防策がある。それが冒頭で触れた帯状疱疹ワクチンだ。 「生ワクチンと不活化ワクチンがあり、予防効果90%以上と非常に高いのは不活化ワクチンです」 ワクチン接種は50歳以上が対象。不活化ワクチンにおいては、発症リスクが高い条件に該当するなら18歳以上から接種可能となっている。 記者は、発症してから“打っていればよかった”と後悔している人を多数知っている。自分はそうなりたくないから、打つ。不活化ワクチンは値段が高いが、近年、帯状疱疹ワクチンの費用の一部を助成する自治体が増えている。なお、帯状疱疹発症後もワクチン接種は可能なので、医療機関に相談を。