「2人きりで会ってはいけない」、知的障害を理由に強いられた〝約束〟 なぜ私たちだけ?特別支援学校高等部の7割が交際を禁止や制限
小学生の時は引っ込み思案で周囲と話せなかったという伊藤さん。だが中学部や高等部で周囲の人間関係に恵まれてコミュニケーションを学び、自身も明るくなれた。恋愛はその中でも大きな経験だったという。 ▽トラブルの未然防止を理由に厳しく制限 東洋大の門下祐子客員研究員が知的障害のある生徒が在籍している特別支援学校高等部の学年主任を対象に実施した2021年の全国調査では、約7割が男女交際を禁止または制限していた。 466人から回答があり、5・6%が交際を「禁止」、63・3%が「禁止していないがルールがある」と答えた。「禁止していないしルールもない」は30・0%だった。 交際禁止のケースについて理由を尋ねると、「トラブルの未然防止」が最も多く、100%が「とても当てはまる」「少し当てはまる」のどちらかを選択。「保護者が不安に思っているから」(81・8%)が続いた。 「ルールがある」との回答者に対し、禁じている行為を聞くと(複数回答)、「性交」(59・6%)が最多。「保護者に許可なく会う」「2人きりになる」が続いた。「キス」(52・6%)や「手をつなぐ」(31・0%)など接触を禁じるケースも多く、「腕1本分離れる」と定めた例もあった。
校則のように明文化せず、教員同士で話し合って運用しているとみられるという。門下客員研究員は「『禁止していない』としていても、厳しく制限している事例が多い。当事者が恋愛を主体的に考えられなくなり、タブーと捉えてしまう。成人後に結婚、出産を希望した場合、周囲に相談できなくなる恐れがある」と指摘する。 ▽恋愛は仕事や生活へのモチベーション、でも「性を学ぶ機会が乏しい」 「恋愛を諦めさせたくないが、どうすればいいのか。娘は性を学ぶ機会が乏しく、理解できていないので一定の制限は仕方ない」。愛知県の高杉由美さん(47)=仮名=は悩みを隠さない。 知的障害がある次女の薫さん(19)=仮名=は今春に高等部を卒業し、カフェで働く。高等部時代に好きになった元同級生の男性と交際中で、結婚や出産を夢見る。学校では交際を禁止・制限されなかったが、親としては2人きりで会わせるのは心配だ。 薫さんの交際相手の男性とは会ったこともあるし、自身も連絡を取り合っている。礼儀正しい好青年で、高等部卒業後はグループホームで暮らしながら頑張って働いているようだ。