衰退ニッポンを「世代交代の起こりやすい社会」に変えるための「たったひとつの方法」
世代交代の起こりやすい社会に変わるために
企業の若返りに関しては、経営者に限らず、部長や課長といったそれぞれのポジションにおいても同じことが言える。優秀な若い世代を抜擢し、早く第一線に登用することが、「老いた国」では何より重要なのだ。 すでに実力本位の人事を実施しているという企業も少なくないだろう。だが、「年功序列」の壁がまだまだ分厚いのも現実だ。こうした状況を打破するには、日本社会に「飛び入学」の文化を根付かせることが遠回りのように見えて近道なのである。 子供の頃から「飛び入学」による進学が当たり前となってくれば、各企業も新卒一括採用を変えざるを得なくなる。結果として、成果主義への抵抗感が薄れ、年功序列の組織文化も消えるだろう。能力がありさえすれば、年齢に関係なく表舞台に立てる社会環境をつくることとなる。 「飛び入学」制度の導入の大きな意図は、優秀な学生・生徒を引き上げることはもとより、日本の組織文化の是正にこそある。ここで世代交代が起こりやすい社会に変わらなければ、「社会の老化」を勢いづかせる。それだけでなく、子供が減る社会において横並び意識から脱却し、個々の能力を引き出し伸ばしていかなければ、それこそ日本が世界の中で取り残されるからである。 日本の「飛び入学」としては、特定分野で特に優れた資質を持つ人が対象で、高校に2年以上在籍した人が卒業前に大学に、あるいは大学を卒業していなくとも大学院に、それぞれ入学できる制度があるが、さらに踏み込んで本当に優秀な人材ならば、基礎学力を身に付けた中学卒業時に大学に入学できるよう道を開くことだ。 若くして大学で本格的に専門分野の勉強に没頭できるようになれば、20歳そこそこで研究機関に就職し本格的な研究業務に就く人や、政府や企業で活躍する人も出てくるかもしれない。ベンチャー企業やスタートアップ企業を立ち上げる若者も増えるに違いない。こうした人材の存在は、科学立国としての陰りが懸念される日本の現状を打破する起爆剤になるとともに、硬直化した企業組織に大きな刺激を与えることが期待できる。 コロナ禍においてジョブ型雇用を採用する企業が増え、年功型賃金を改める動きも出てきたが、飛び入学する人を一部の天才に限るのではなく増やしたならば、こうした動きは間違いなく加速する。新卒一括採用の見直しと合わせて、雇用の流動化にもつながっていくことだろう。 少子高齢化に伴い勤労世代が急減する日本にとっては、雇用の流動化による成長分野への優秀な人材のシフトは国の趨勢も決める。高齢化が進むほど、優秀な若い世代をどんどん登用していかなければ、社会から活力が失われていく。もはや日本は均質的な人材育成では「社会の老化」を止めることはできない。若者の個性を認め、世界の中でナンバーワン、オンリーワンの分野をたくさんつくっていくことに復活の道を見出していくことである。躍動する日本企業が再び増えたならば、「老化」を続ける日本社会の風景も、また変わる。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)