中国の深遠なる活動「三戦」とは?
心理戦:相手の心を揺さぶる
心理戦は、相手の士気に打撃を与え、相手の行動力を低下させることを目的としています。具体的には、相手を威圧することで行動を躊躇させる「威嚇」などの手法がとられます。例えば、2012年、中国が当時フィリピンの実効支配下にあったスカボロー礁(図表3参照)に進出した直後には、問題の長期化や米国の関与の増大を受け、中国共産党の機関紙である『人民日報』が「実力をもってすれば、別のやり方を選ぶこともできる」との論評を出しました。 また、中国軍の機関紙である『解放軍報』も「黄岩島(スカボロー礁)の主権を奪う試みに対しては、中国政府は容認せず、中国人民は容認せず、中国軍はなおさら容認しない」と論評しました。軍事力を行使することすら辞さない姿勢を示唆することで相手を威圧し、相手がより積極的な行動をとりにくい状況をつくりだすという、心理戦の一つの手法です。その後、フィリピンはスカボロー礁から監視船を撤退させ、現在に至るまで中国による実効支配が続いています。
法律戦:法的根拠を整える
法律戦は、国際法や国内法を利用して、中国の行動に対する反発に対処することを目的としています。具体的には、政府が行動する際の根拠となる国内法を整備することなどが挙げられます。例えば、2010年に施行された「海島保護法」です。この法律は、島嶼と周辺海域の生態系を保護しつつ、島嶼の自然資源を合理的に開発・利用して中国の海洋権益を守り、社会経済の持続的発展を促進するために作られました。 この法律により中国は、自身が中国領と考える島嶼などを保護し、開発・利用する法的根拠を整えました。海島保護法の対象には、尖閣諸島や南沙諸島も含まれると考えられています。なぜなら、1992年に中国が制定した「領海法」によって、尖閣諸島や南沙諸島は中国の領土と規定されているからです。実際、中国が南沙諸島において大規模な埋立て工事を始め、港湾や滑走路の整備など「開発・利用」するようになったのは、海島保護法が制定された後のことです。