<春へ一丸・’23センバツ慶応>/中 考え、楽しみ プレーを ミス恐れない思考重視 /神奈川
昨年10月にさいたま市で開かれた秋季関東地区大会の初戦。同点に追いつかれた直後の四回裏1死一塁の場面で、2打席目に入った清原勝児(1年)が、内角に来た3球目を捉えると、打球は勢いよく左翼スタンドに吸い込まれた。チームを勢いづかせ、5―3で競り勝った。 チームは試合前、相手の常磐大高(茨城)の右腕投手の外角の直球とスライダーを狙う方針を立てた。しかし、1打席目は内野ゴロだった清原が「内角で打ち取られた。次は内角を狙いたい」と、森林貴彦監督(49)に打診。清原の考えを尊重して送り出した。8年前に就任した森林監督が掲げる、指示に従うだけでなく自分で考えて取り組む「シンキング・ベースボール」を体現した場面だった。 毎年、春から夏にかけ、監督がサインを出さずに練習試合を行い、選手に頭で考えさせる訓練を積ませる。試合後、そのプレーをした意図も必ず聞く。森林監督は「理想はノーサインで試合を行うことだ」と話す。 一方、2015年夏まで慶応を率いた前監督の上田誠さんが掲げた、野球をのびのびと楽しむ「エンジョイ・ベースボール」もチームに浸透している。秋季関東地区大会2回戦は、その思考がうまく生きた。 完投した小宅雅己(1年)は、相手の昌平(埼玉)打線に計16安打を放たれるなど毎回走者を背負ったが、崩れなかった。守備陣も長打を打たれないよう外野深くを守るなど、一人一人が劣勢を後ろ向きに捉えない思考もチームの大きな力になった。失点を最小限に抑えて7―3で勝利し、4強入りを果たした。森林監督は「全てをゼロに抑えようとして、一つ崩れると崩壊するのが高校野球(の悪いところ)。ミスしたらいけないと思うとつらくなってしまう」と、前を向く姿勢を貫くことを日ごろから選手に説く。 森林監督は「外見的に目立つ練習はしていない。他と違うところがあるとすれば、選手一人一人の物事の捉え方だ。明るく楽しくやった方が勝利に近づく」。失敗を引きずらず、萎縮せず、勝利をたぐり寄せていく。