紅麹サプリ、増え続ける死者数 小林製薬の報告遅れ、取締役会の機能不全を露呈
小林製薬が製造・販売した「紅麹(べにこうじ)」成分のサプリメントを摂取した人の健康被害を巡り、因果関係が疑われる死者数の大半を厚生労働省に報告していなかったことが分かってから約1週間。当初5人としていた死者数は4日現在で、遺族からの相談件数が215人、このうち調査中が84人まで増えた。取締役会が形骸化していたことが判明し、コーポレートガバナンス(企業統治)が厳しく問われている。 【図でみる】小林製薬から厚生労働省への死者数の報告状況 「もう小林製薬だけに任せておくわけにはいかない。厚労省が直接、調査にかかわる計画をしっかり同社に立てさせる」 武見敬三厚労相がそう怒りをあらわにしたのは6月28日。死者数の報告は3月末の「5人」から更新されていなかったが、実際には6月27日までに新たに170人分の相談が遺族から同社に寄せられ、うち76人について因果関係を調べていることが判明した。 食品衛生法施行規則では「健康被害と疑われる情報(医師が診断)を把握した場合は提供に努める」と定める。厚労省はこの規定に基づき、小林製薬からも当然、すべての被害情報が上がってくるものと考えていたが、裏切られた形だ。 同社は6月中旬に同省からの指摘を受けて「これまでは腎疾患と診断された事例のみを報告対象としていた」と釈明し、「死亡との関連性を調査している対象事例数」をすべて報告することに基準を変更。その後、報告数は日々増えている。 独自の判断で情報を抱え込んでいた同社の姿勢について、中央大の青木英孝教授(コーポレートガバナンス論)は「被害を小さく見せたい意図があったと捉えられかねず、厚労省の指摘がなければ公表されなかった可能性もある。確認中の情報だったとしても報告すべきだった」と批判する。 同社は1月中旬に最初の健康被害を把握してから製品の自主回収まで2カ月以上かかり、被害について、社外取締役を含む取締役会には、3月22日の公表直前まで議題に上がっていなかった。 このため同社は同28日の取締役会で、再発防止策や品質管理体制、情報共有・発信のありかたなどを定期的な議題に追加することを決定。「取締役会による監督機能の強化を図る」としていた。「170人」についても「取締役会に適宜報告していた」と説明するが、厚労省には報告していなかった。
関西大の亀井克之教授(リスクマネジメント論)は「(この件数の未報告は)許容できるレベルではない。結局は(社長ら執行役員で構成する)経営執行会議などで重要なことが決まり、取締役会は追認の場になっているのではないか」と指摘する。(清水更沙)