「権力と言うものは恐るべき怪物です」…平和な日常なし崩しに奪い、人の心狂わす戦争を実話に基づき伝えた記録 椋鳩十が「マヤの一生」に託した思い
「権力は怪物」といった椋は続ける。「ひとたび、権力に、心臓をかまれたものたちは、善人であればあるほど、どのように変わっていくか、地獄の悲しみとでもいった、どす黒い悲しみの中に、ひきずり込まれていくか」「戦争体験者には、もう一度、戦争を知らない人にもまた、しみじみと感じてもらいたい」 終戦から25年。戦争の実感が薄れつつある社会に向けた警鐘だった。 =おわり= ■マヤの一生 田舎暮らしの家族と愛犬マヤに起きた戦時下の悲劇の物語。家族の一員だったマヤは、食糧難のために飼い犬はぜいたくだとして、警察官や役場の人、地域の世話役に強制連行され殺される。供出に応じない家族を「非国民」扱いするなど、極限状態の中で人々が権力にのみ込まれ、人間性を失ってしまう戦争の本質を、次男(モデルは久保田里花さんの父・瑤二さん)とマヤの愛情を通して描く。
南日本新聞 | 鹿児島
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