ゴラン高原「緩衝地帯」にイスラエル軍が続々…銃撃音聞こえず、地元住民「自由に行き来できる日が来れば」
イスラエルがシリアのアサド政権の崩壊に乗じ、シリアとの間に設けられた緩衝地帯に侵攻している。イスラエルの占領地であるゴラン高原ではイスラエル軍の兵士を乗せた車両が緩衝地帯に活発に出入りしていた。安定を望む地元住民の声をよそに、イスラエルの動きは地域を混乱させる恐れがある。(ゴラン高原マジュダルシャムス 福島利之、写真も) 【動画】ゴラン高原ルポ イスラエル軍兵士が続々とシリア領内へ
ゴラン高原の北端マジュダルシャムスでは12日、対シリア国境沿いに建てられた鉄製フェンスの門を抜け、イスラエル軍兵士を乗せた四輪駆動車の車列が数十分ごとに行き来していた。車両は緩衝地帯の山道を登り、シリア領内へ進んでいた。
緩衝地帯から銃撃音は聞こえず、イスラエルが完全に支配下に置いたことをうかがわせた。国境から100メートルほど先の丘に立つ建物に以前掲げられていたシリア国旗はなく、今はイスラエル軍の車両が駐留している。
緩衝地帯は第4次中東戦争翌年の1974年にシリアと結ばれた兵力引き離し協定に基づき設定された。イスラエルは8日、一方的に協定を破棄し、緩衝地帯に軍を進めた。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は12日、「イスラム過激派が空白を埋め、イスラエルを脅かすのを容認しない」と説明した。
ユダヤ人で1歳の時からゴラン高原のキブツ(農業共同体)に住み、ワイナリーの家業を手伝うアヤ・ペルテルさん(21)は「ゴラン高原は、私が生まれてからずっとイスラエル領だった」と話す。緩衝地帯へのイスラエルの進軍はゴラン高原の安全確保が狙いだが、国連は協定に反する行為を非難し、シリアの主権侵害に「深い懸念」を表明している。
ゴラン高原は67年の第3次中東戦争でイスラエルがシリアから奪い、50年以上占領を続けてきた。イスラエルとシリア、レバノンの国境が交差するこの一帯には、イスラム教シーア派の傍系ドルーズ教徒が住む。
シリアのアサド政権下では抑圧されてきた。マジュダルシャムスでシリア領に向かうイスラエル軍を見守っていたドルーズ教徒の元公務員サリームさん(74)は「シリアの独裁者が去ったのはうれしい」と口にした。