米国なら起きなかった佐々木の決勝登板回避騒動
もしも、佐々木が米フロリダ州の選手であれば、決勝戦で登板しなかったのは当然で、4回戦の延長戦で194球を投げることも、準決勝で129球を投げて完封勝利することもなかった。しかし、米国は7イニング制だから105球以内で完封勝利をしていたかもしれない。 大船渡高の地方大会は、2回戦から決勝まで10日間で6試合を行っている。76球以上を投げたら4日間休むという規則を適用するとなると、現実的に考えて、完投する投手は、2試合しか投げられないことになってしまう。 一方のフロリダ州の日程。今年は5月6-10日までが区域のトーナメント。ここで勝ち上がったチームがリージョナルス大会へ進む。リージョナルス大会は5月15日に準々決勝、5月18日に準決勝、5月22日に決勝を行った。さらにリージョナルス大会で勝ち上がった4チームで州の優勝校を決める。今年は準決勝が5月30日、決勝が6月1日だった。 もしも、佐々木がフロリダ州で高校野球をしていたら、州の準決勝の投球数を45球以内に収めていないと、1日あけた決勝戦には登板できなかったことになる。 米国の高校野球の監督は、投球数制限と休養日規則の枠組みのなかで、投手起用のやりくりに頭を使う。絶対的なエースを抱えていても、州の準決勝と2日後の決勝戦で先発完投させることは、現実的には不可能だ。メジャーで流行っている「オープナー」のように、本来はリリーフで投げている投手を先発させ、短いイニングで交代することも導入している。 投球数と休養日規則が議論されるとき、選手層が薄く、投手数の少ないチームは不利だと言われる。ひとりのエースに頼って勝ち上がることはできないからだ。米国の場合は、前述したように学校の生徒数や地域によって、ディビジョンが分かれている。フロリダ州の高校野球はディビジョンが9つあり、ディビジョンごとに優勝を決める。州の優勝校は9校あることになる。生徒数の少ない学校は、対戦相手の生徒数も少なく、そのことによってある程度、競技の公平性を得られる。これも甲子園のような全国大会がないから可能なことだろう。 大船渡高の國保監督は、岩手大会決勝の花巻東高戦で佐々木を登板させなかった。決勝だけでなく、延長12回に突入した4回戦でも佐々木にどこまで投げさせるかなど、地方大会を通じて難しい決断を強いられたと思う。全責任を背負っての決断だったというのに、賛否の議論が起き、学校には、「なぜ佐々木投手を決勝に投げさせなかったのか」と批判の電話が殺到したという報道を目にした。 今まで米国が導入している投球数制限と休養日規則は、投手の身体を守るために必要なものだと考えてきたが、このルールは、監督を外部の心ない批判から守るためにも有効なのかもしれない。 (文責・谷口輝世子/米国在住フリーライター)