人類進化史変わる?アフリカ以外最古約19万年前ホモ・サピエンス化石新発見
最古の「ホモ・サピエンス」化石記録
初期ホモ・サピエンス(Homo sapiens)の化石記録を図にまとめてみた。化石の年代と発見された場所にまず注意して見てみたい。 「最古」のホモ・サピエンスの化石と現在考えられているものは、アフリカ北西部のモロッコにある「Jebel Irhoud」という地域で発見された、かなり保存状態のいい頭骨の化石だ(こちらの写真参照)。この年代が「約31.5万年前」と推定されているが、「34.9万年前」までさかのぼる可能性もある(Richter等2017)。 ― Richter, D., R. Gr●n, et al. (2017). "The age of the hominin fossils from Jebel Irhoud, Morocco, and the origins of the Middle Stone Age." Nature 546(7657): 293-296. (※ ●はuの上に・2つ) ちなみにこのモロッコの標本は、ホモ・サピエンスとして地質年代上極端に古いものだったため、1960年の発見時から長い間、ネアンデルタール人のものと考えられてきた。しかし昨年、頭骨の形態にもとづく詳細な研究によって、この標本が実は「ホモ・サピエンスのものである」というアイデアが導かれた(Hublin等2017)。 ― Hublin, J.-J., A. Ben-Ncer, et al. (2017). "New fossils from Jebel Irhoud, Morocco and the pan-African origin of Homo sapiens." Nature 546: 289-292. アフリカ大陸における他の化石記録としては、例えばエチオピアの「Omo」という地域で発見された標本がいくつかある。その年代は約19.5万年前だ(Flegle等2011)。これに続く記録は約16万年前以降までさかのぼる必要がある(エチオピアの「Herto 」標本:White等2003)。 アフリカの外に目を向けてみよう。同じくイスラエルの「Skhul/Qafzeh」という地域から、いくつかホモ・サピエンスと思われる(断片を含む)歯の化石が発見されている。この年代が20万から40万年と推定されている(Hershkovitz等2011)。 数字だけ見ると「そんなに古いのか!」とびっくりするかもしれないが、少し注意が必要だ。まず年代の推定にかなり開きがある。歯だけしか見つかっていないため、種レベルでの判定が難しいかもしれない。そして、この地域からホモ・ネアンデルタール等他の種の化石がいくつか見つかっている(Stringer 2016)。そのため、今のところ最古の人類種の化石記録とはっきり確証が得られない可能性があるようだ。 とりあえず、今回のイスラエルの新発見(=約19万年前)は、今のところ「二番目か三番目に古い」ホモ・サピエンスの化石記録といえる。アフリカ大陸以外では一番古い化石記録の可能性も(今のところ)ある。 そして東アジアに目を向けると、一番古いもので「12~16万年前」という記録が中国中部と南部から知られている(Bae等2017)。こうした記録だけを頼りに「東アジアがホモ・サピエンスはじまりの地か?」という率直な結論に飛びつくのは禁物だろう。 しかし、アジアにはホモ・サピエンス以外の初期のHomo系列の種 ── 例えばジャワ原人や北京原人等のホモ・エレクトス(Homo erectus)やインドネシアのフローレス原人等(Homo floresiensis) ── が、20万年以上前に「すでに存在していた」という事実を、あらためて認識しておいてもいいだろう。 こうしてあらためて初期人類の化石記録をながめてみると、古い時代(特に10万年前以前)になるほど、化石の数は極端に少なくなるようだ。しかし研究者は、かなり熱心に最古の人類の化石を探していることが推察される。近い将来、ホモ・サピエンスの最古記録を覆す発見がなされても驚かなくていいように、今から心の準備をしておいたほうがいいかもしれない。