3月モスクワのテロ事件はイスラム国の仕業だ!
■テロ情報を信用しなかったプーチン しかしプーチン氏は今回、ワシントンからのテロ情報を信用しなかった。テロ発生の3日前、対テロ作戦の中核である連邦保安局(FSB)での会議に出席したプーチン氏はこう警告をはねのけた。 「これは、あからさまな脅迫である。ロシア社会を脅し、不安定化を狙ったものだ」 なぜプーチン氏は今回、アメリカの警告を受け入れなかったのか。やはり、ウクライナ侵攻で間接的にロシアと対峙するバイデン政権への反発があったと思われる。実際に、事件当夜のコンサートホール周辺の状況を見ると、厳重な警戒態勢をとっていたとは言えない。
これは、明らかにプーチン政権の手落ちである。西側であれば、テロ警備上で大きなミスを犯したとして、政権への批判の大合唱が起きるところだが、ロシアではそうはならない。真の野党も、報道の自由もないからだ。 逆にプーチン政権は、この事件をウクライナや米欧への攻撃材料として利用している。プーチン氏は「過激なイスラム主義者」の犯行とする一方で、ウクライナの関与の可能性に触れた。 大統領の側近でもあるボルトニコフFSB長官に至っては、ウクライナとともに米英両国の情報機関が関与している可能性が高いとの見方も示した。
■説得力に乏しいロシア側の主張 しかし、上記したようにテロ情報を提供したアメリカはもちろん、ウクライナも、ロシア本土への攻撃に際しては、民間人を対象としないという原則を掲げている。ロシア側の主張はいかにも説得力に乏しい。 筆者は2024年3月22日付「大統領選『5勝』のプーチンが乗り出す世界戦略」の中で、プーチン政権が、西側的法治主義を形式的に取り入れた従来の「ハイブリッド民主主義」をやめ、米欧的価値観を一切拒否する「反西側要塞国家」としての純化を始めたと報告した。
今回の事件でも、このプーチン政権の一層の強権化を象徴する場面があった。 事件の実行犯として逮捕された4人のタジキスタン人が法廷に連行された際、明らかに治安当局の取り調べを受けた際に拷問を受けていた痕跡があったのだ。 このうち、一人は片耳を切断され、別の一人は意識がないまま、車イスに乗せられていた。プーチン氏は2022年に拷問を禁止、厳罰の対象とすることをうたった拷問禁止法を成立させた。しかし、人権活動家によると、ロシアはこの法成立後も取り調べで実際には拷問は行われていたが、当局は隠そうとしていた。これが今や、隠そうともしなくなったのだ。