学力上位層の高校生「ネットいじめ」が増えた理由 背景に「環境変化によるストレス」や「いじり」
「いじり」の固定化がいじめにつながる
原氏らの大規模調査では、ネットいじめはリアルないじめと地続きであることが明らかになっているという。 「調査前は、われわれもネットいじめとリアルないじめは内容も対象も別物だと思っていました。しかし、調査によって両者は相関関係が強く、リアルでしんどい子はネットでもしんどい状態で、逆も然りだということがわかりました。その背景にあるのが『いじり』です」 2013年のいじめ防止対策推進法により、近年、学校現場では「いじめはダメ」「被害者がしんどいと感じたらいじめ」という考え方が浸透した。しかしその成果の一方で、「『いじめはだめだけど、いじりはOK』と考えている子どもも少なくない」と原氏は指摘する。 「いじられる側は10回に1回はしんどいと感じていても、自分のプライドを守るため『これはいじりなんだ、目くじらを立てる必要はない』と自分を納得させ、一緒に笑い飛ばしてしまいます。これは心理学における自己合理化と言えるでしょう」 「ウザイ」と言われ、いじられた側が自尊心を守るために必死に笑っていると、何が起こるのか。 「いじる側は『いじってもいいんだ』と受け取ってしまい、今度は『キモい』と言う。それでも相手が笑っていると、さらに悪意がある言葉へとエスカレートしていきます。いじる側といじられる側が交互に変わる『回しの関係』が保たれている間はまだいいのですが、いじられる側が固定化され、みんなでよってたかっていじるようになるといじめになります。実はこれがネットでも起こるのです」
ネットで強まる「同調圧力のブースター」
いじりから発展する今のいじめは、リアルとネットを行き来するようだ。ただし、ネットいじめにはリアルいじめとは異なる特性があるという。 「ネットではリアル以上に同調圧力が生じます。例えば、遊びに誘われたときに対面なら『都合が悪い』と言えても、LINEグループで同じように断れる子は少ないもの。明治大学 の内藤朝雄さんも指摘しているように、サイバー空間では『同調圧力のブースター』が働くためです。例えば、SNSで誹謗中傷を受けた若い女性が亡くなった事件がありましたが、ネットでは『みんながやってるから』と集中的に攻撃してしまう。一度ターゲットになったら誰も助けてはくれず、その人が自暴自棄になるまで誹謗中傷が続きます。それがネットの危ないところであり、ネットいじめの残酷な構図なのです」 原氏らが行った大規模調査の対象は高校生だが、こうしたネットの文化は伝播しやすく、下の世代の中学校や小学校でも同じ傾向が見られるのではないかと原氏は危惧する。では、こうしたネットいじめを防ぐために学校や教員ができることはあるのだろうか。 「ネットリテラシー教育を行う学校は多いですが、その内容はほぼ『個人情報を書いてはダメ』『画像の情報に注意しよう』というもの。しかし、エビデンスを見ていくと、子どもたちの間で起こっているネットいじめの問題はそこだけではありません。例えばSNSに『あの高校に合格した』『テーマパークに来た』と投稿したとしましょう。以前なら『おめでとう』や『いいね』という反応が返ってきたものですが、今は『自分だけ受かればいいのか』『行けない人のことを考えろ』と言われ、炎上してしまうのです。こうした実情を踏まえ、『ネットいじめは人を殺すこともある』という啓発を行う必要があります」