子どもを殺してくださいという親たち、それでも親を愛する子どもたち…親が子どもの命を削る日本社会「子どもに罪はないという出発点に立ち返れば、あまりにもこの国は冷たくないか」
真実をもとにやっているという我々の覚悟を読者に示したい
ーー地域移行に舵を切ったことで、そういうことを言いやすくなりそうだなと思いました。 なるでしょうね。より、自己責任の部分が明確化されていきますから。ただ病識がないということが精神疾患の永遠のテーマですし、児童福祉の分野でいえば、どこまでいっても「子どもに罪はない」のです。その出発点に立ち返れば、あまりにもこの国は冷たくないか、と。そのことをこれまで漫画で描いてきました。 確かに、『子供を殺して』のスタート時は、横槍や誹謗中傷もたくさんありました。でも、真実さえ描き続けていけば、絶対に読者が理解してついてきてくれると思っていましたし、今では「押川、けっこうまともなこと言ってるじゃないか」と支持されるほどになっています。 だから『それでも』でも、これまで見て見ぬふりをしてきた児童養護施設の真実をちゃんと描き続けていけば、読者や社会がまた認めてくれると思っています。 実は、第1巻の「【ケース1】にんじん」に出てくる、子どもが描いた母親の似顔絵は、一度描き直してもらっているんです。原稿が上がってきたときに、「当事者の児童が、こういう絵を描くかな?」と感じました。監修してくれている児童福祉の専門家に見てもらったところ、やっぱり違うと。それで、もう一度取材や資料を集めなおして、編集の岩坂さんに「これが現実に、子どもに描いてもらった母親の絵なんだ」と。 作画のうえの先生も非常にきつかったと思いますが、そこまで細部にこだわって作ることで、本当に真実をもとにやっているんだという我々の覚悟を読者に示せたんじゃないかと思います。 第1話の原稿に比べて、うえの先生の画力、想像力も格段に上がっています。実際に、飲み屋のお姉さんが絵をほめていましたよ。「虐待で通報されたことのある友達がいるんだけど、下着の投げやりな干し方とかがそのまんまでびっくりした」って。それは、うえの先生の気合いと根性なので(笑)。感謝しています。 ーー『それでも』と『子供を殺して』は対となる作品ではありますが、併せ読むことでどのようなことが見えてくると考えていますか? どちらの作品も出てくる親は背中で隣り合わせなんです。結局は両方とも、親が子どもの命を削っている。それぞれが孕んでいる問題は地続きだったりするので、一方では親を通しての目、もう一方では子どもを通した目で並べ見ることで、とても立体的になり、理解が深められると思います。2作を同時に走らせたことで、問題意識をより持っていただきやすくなったと思いますので、ぜひ並行して読んでいただきたいですね。 取材・文/森野広明
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