内輪ネタ「みむかゥわナイストライ」が中国で1000万再生 / 宇多田ヒカルとアインシュタインの手紙のこと
YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで12月6日から12月12日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。 【動画はこちら】世界的に話題の「みむかゥわナイストライ」ミュージックビデオ(そのほかの記事中で言及しているMVも) 文 / 真貝聡 ■ まずはこの週の初登場曲の振り返りから 今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、12位にずっと真夜中でいいのに。の「TAIDADA」が登場した。この曲は10月リリースのミニアルバム「虚仮の一念海馬に託す」収録曲で、MBS・TBS系アニメ「ダンダダン」のエンディングテーマ。MVの概要欄に「TVアニメ『ダンダダン』Endingが好きなのでMAD MVを作成しました Respect ターボババア」と書かれている通り、アニメ「ダンダダン」のエンディング映像をオマージュして制作された。YouTubeのコメント欄には「パロり方センス良すぎる」「公式がアニメ映像と合わせてアップするのいいな。同じ曲のはずなのにアニメ視聴前のOP部分を贅沢に味わった感覚になって幸せ」など絶賛する声が多く上がっている。 17位にはSixTONESの「THE BALLERS」がランクインした。こちらは1月15日にリリースされるニューアルバム「GOLD」のリード曲で、「B.LEAGUE 2024-25 SEASON」のシーズンテーマソングだ。12月6日にMVが公開されてから、11日で400万回再生を突破した。 43位に登場したのはTREASUREの「LAST NIGHT」。作詞にはメンバーのアサヒ、チェ・ヒョンソク、ヨシ、ハルトが参加しており、大切な人と月夜を眺めている描写など幻想的な歌詞に引き込まれる。 46位にはAdoの「Episode X」が登場した。これはAyase(YOASOBI)による提供曲で、公開中の映画「劇場版ドクターX FINAL」の主題歌。米倉涼子が演じる「ドクターX」シリーズの主人公・大門未知子による決めゼリフ「私、失敗しないので」を想起させる「そう 私に失敗はない」というフレーズが歌詞に盛り込まれていたりと、作品の世界観が見事に踏襲されている。 今話題のアニメや映画の主題歌が目立った今週は、下記の3曲をピックアップした。 ■ TWICE「Strategy(feat. Megan Thee Stallion)」 ※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場5位 TWICEが12月6日にリリースした14thミニアルバムの表題曲「Strategy(feat. Megan Thee Stallion)」のMVが今週5位にランクインした。同曲に参加しているミーガン・ザ・スタリオンは第63回グラミー賞で最優秀新人賞、最優秀ラップパフォーマンス、最優秀ラップソングの3部門を受賞したほか、BETアワードやアメリカン・ミュージック・アワードなど、数々の音楽賞を受賞しているアメリカのラッパー。両者がコラボをするのは、ミーガンが10月25日に発表した「Mamushi(Remix)(feat. TWICE)」に続いて、今回が2度目となる。 「Strategy」は「Hey, boy, l'ma get ya」(ねえ、ボーイ、あなたを私のものにする)や「I got a plan to get you with me」(あなたを手に入れる計画が私にはある)などの歌詞により、“さまざまな戦略で愛する人の心をつかむ”ことを宣誓する、自信に満ちあふれた女性を歌ったガールクラッシュ曲だ。MVはモノトーンのクールな衣装に身を包んだメンバーが、射撃場を思わせる場所でキレキレのダンスを披露しつつ、ハートを射止めるように人型の的に向かってナイフを突き刺す映像が印象に残る。 12月11日にはメンバーによるリアクションビデオが公開された。開始50秒でのダンスシーンが撮影中に急遽追加された話など、いろんな裏話が聞けるので合わせてチェックいただきたい。 ■ ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ「みむかゥわナイストライ」 ※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場15位 「モ ミ ア ゲ ヲ シ ャ カ ア ゲ ヲ」以来、約1年ぶりとなるぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬの新曲「みむかゥわナイストライ」が到着した。初音ミクとカードゲームのUNOをプレイする様子を描いた斬新な切り口の1曲だ。低音の効いた心地いいトラックに乗せて、手札が残り1枚となりゲームの圧倒的優位に立った初音ミクが「…なんで手札出さねえの?。…ひょっとして、ひよってんの?、…まじくっそだせえな / あ・く・し・ろ・よ。…(・д・)チッ」と煽りまくるのが面白く、「ざこざこざこざこ」というフレーズが音として小気味いい。思わず何度も聴きたくなる中毒性が、この曲にはある。 この遊び心満載の楽曲が生まれた背景には、ボカロPの榊みむが「マリオカート」でいつも下位になるのを、同じくボカロPの子牛と南ノ南が「みむかわ、ナイストライ!」と励ましていたことが元ネタになっているという。そんなかなり内輪ネタな楽曲ではあるが、虜になっているのは日本人のリスナーだけではない。YouTubeに英語詞、中国の動画サイトBilibiliに中国語詞の字幕付きMVを載せたこともあってか、この曲は世界的なバズが発生。英語詞でカバーする海外の人も現れ、なんとBilibiliでは1000万再生を突破している。 一方、このMVは海外で一部リスナーの間で問題視され、物議を醸しているようだ。ネットスラングに「生意気な少女のキャラクター」を意味する“メスガキ”という蔑称があるのだが、ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ本人がX(Twitter)でこの曲を「Mesugaki MIKU」という言葉で紹介したこともあってか、海外ではこの言葉に対する拒否反応を示す人も多く現れ、MVに対して小児性愛者向けコンテンツではないかという批判の声も上がっている。 ■ 宇多田ヒカル「Electricity」 ※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場50位 今年デビュー25周年を迎えた宇多田ヒカルが、4月10日にリリースしたベストアルバム「SCIENCE FICTION」。そこに新曲として収録されているのが「Electricity」だ。こちらは伊藤忠商事のCMソングで、宇多田本人が出演したことでも話題に。7月から9月にかけて行われたツアー「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」のアンコールでは、コレオグラフィーを担当したアオイヤマダと高村月をゲストに招いて同曲が披露された。 そんな「Electricity」について、宇多田は「地球に移住してきたり観光に訪れた宇宙人二人が地球で出会うというSF物語のような設定の歌詞世界です」とコメント。「美しい鉱物や夕焼け / 噂の緑を観に来ました / あなたはどの銀河系出身ですか?」という歌詞からも、宇宙人が出会う様子が読み取れる。 個人的にドキッとしたのが「解明できないものを恐れたり / ハマる、陰謀論に / そんな人類みんなに / アインシュタインが娘に宛てた手紙 / 読んでほしい / 愛は光 愛は僕らの真髄」という一連のフレーズだ。それまで“宇宙人2人”のことを歌っていたが、ここで聴き手に向けたメッセージに変わる。諸説あるが、アインシュタインが娘に宛てた手紙は実際に存在したと言われており、そこには次のようなことが書かれているという。 「現段階では、科学がその正式な説明を発見していない、ある極めて強力な力がある。それは他のすべてを含みかつ支配する力であり、宇宙で作用しているどんな現象の背後にも存在し、しかも私たちによってまだ特定されていない。この宇宙的な力は愛だ。科学者が宇宙の統一理論を予期したとき、彼らはこの最も強力な見知らぬ力を忘れた。愛は光だ」「愛のために私たちは生き、また死ぬ。 愛は神であり、神は愛だ」 SFをテーマしたことや、アインシュタインの手紙の一部を引用した歌詞からも、「Electricity」は単なるラブソングの枠に収まらないスケール感の曲であり、愛の真理を歌った壮大な楽曲であることがわかる。 ■ 真貝聡 ライター / インタビュアー。雑誌やWebで執筆するほか、MOROHA「其ノ灯、暮ラシ」、BiSH「SHAPE OF LOVE」、PEDRO「SKYFISH GIRL-THE MOVIE-」といったドキュメンタリー映像作品や、テレビ特番「Mrs. GREEN APPLE ~Review of エデンの園~」にインタビュアーとして参加している。