仲野太賀が『虎に翼』に刻み込んだ言葉と想い 優三の演技に泣いて笑った2カ月間
佐田優三(仲野太賀)がこの世界からいなくなった。寅子(伊藤沙莉)の人生において大切な存在であり、ずっとそばにいてほしかった、ずっとそばにいるべきだった人だ。今は喪失感しかないだろうが、きっと彼が遺した「言葉」や「想い」は、やがて寅子の「光」となって背中を押し続けるに違いない。今はそう信じている。 【写真】川辺での寅子(伊藤沙莉)と佐田優三(仲野太賀)の名シーン 優三の戦病死が発覚したあと、NHK連続テレビ小説『虎に翼』を観るのが辛くて苦しかった。大切な人を失った寅子を思うと、いたたまれない気持ちになるからだ。 優三は、寅子にも視聴者にも優しい笑顔を向けてくれて、「言葉」で、「想い」ですべてを包んでくれる人だった。病室で隣になった男から聞いた最後の彼の姿も、優しさに溢れていたように思う。ここまで優三に思いを馳せてしまうのは、きっと仲野太賀の演技に惹きつけられたからだろう。 俳優・仲野太賀の演技を見ていると、心が裸になってしまうのはなぜなのだろうか? 仲野は連続ドラマだけでも、超マイペースなゆとり世代の山岸ひろむを演じた『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、パンチパーマ&ヒゲのムードメーカー・高杢金也役を務めた日曜劇場『仰げば尊し』(TBS系)、コミカルな演技が話題となった今井勝俊役の『今日から俺は!!』(日本テレビ系)のほか、『コントが始まる』(日本テレビ系)、『拾われた男』(ディズニープラス)、『初恋の悪魔』(日本テレビ系)……など、数えきれないほど多くの作品に出演している。 もちろん、映画でも第45回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、第76回毎日映画コンクール男優助演賞など、数々の賞を受賞。実績を残している。 改めて過去作を見てみると、仲野が演じる役柄にはどんな役でも温もりがあるように感じた。『#家族募集します』(TBS系)の“熱い”小山内蒼介には何度も泣かされたし、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)では、潮ゆくえ(多部未華子)と仲野演じる赤田鼓太郎の関係性が最高だった。現在、テレビ東京で放送中の『季節のない街』(ディズニープラス)で演じている与田タツヤからも目が離せない! 『虎に翼』の優三だってそうだ。検事を相手にしたシーン、寅子と変顔をしあった出征の場面……何度も胸を熱くし、何度も涙した。第44話、夫の死に直面した寅子が、川辺で優三の言葉を思い出すシーンでも枯れるほど泣いた。 「寅ちゃんが後悔せず、心から人生をやりきってくれること。それが僕の望みです」 くしゃくしゃに顔をゆがめて号泣した伊藤の演技はもちろんだが、同時に仲野の表情や言葉にやられた場面でもあった。なぜあんな表情ができて、なぜあんなに想いを乗せて気持ちを伝えることができるのか。演技のそれを超越したような瞬間だった。 仲野の台詞は胸の奥に刺さる。まるで登場人物の心の中が浮き上がってくるような表情をして、本気で泣いて、本気で笑っているように感じる。すべてをさらけ出してくれる。だから、視聴者の心が裸になって、感情があらわになってしまうのだろう。 そんな仲野は、7月からフジテレビドラマ『新宿野戦病院』で小池栄子とW主演、11月1日公開の映画『十一人の賊軍』では山田孝之とW主演、そして2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』でも主役の豊臣秀長役を務めることが発表されている。彼の「これまで」を追いかけてきた生粋のファンはもちろん、『虎に翼』でトリコになった人も「これから」の俳優・仲野太賀が非常に楽しみとなるスケジュールではないだろうか。 多くの人の心に「想い」を刻み込む演技をしてきた仲野。今後も、その本気の「言葉」で映画・ドラマ業界を席巻してほしい……と勝手ながら思う。だって、彼の演技がずっと見たいから。
浜瀬将樹