移植待っているのに…臓器受け入れ辞退 「病院の態勢」理由が約500人 移植医療の現状と課題〈宮城〉
仙台放送
脳死となり臓器を提供した人の数は年々少しずつ増えていて去年初めて100件を超えました。臓器移植法施行後の提供者数はトータルで1000件を超え、脳死移植の定着が伺えます。一方、厚生労働省の調べで、提供された臓器の受け入れを病院側が辞退し移植が見送りになるケースが少なくないことが明らかになりました。移植医療の現状と課題を取材しました。 今月2日、大阪で開かれたイベント。移植待機者とその家族を支援する非営利団体が企画したもので、移植を受けた人やその家族など約250人が集まりました。 支援者の一人、横山由宇人さん。宮城県利府町出身で県内の大学に通っています。由宇人さんは今から14年前、5歳の時に心臓移植を受けました。 横山由宇人さん 「突発性拡張型心筋症になって心臓のポンプ機能が活力を失って、血液が他の臓器に送れなくなり多臓器が弱ってやがて心停止になってしまう病気だったから両親の意思で移植をした」 当時、小児の心臓移植は国内では認められていなかったため、多額の費用を募金で賄い、アメリカで心臓移植を受けました。父親の慎也さんは当時をこう振り返ります。 横山さんの父・慎也さん 「これ以上、痛い思いをしなくていい安堵感と一方で、亡くなった方がいる喜びと悲しみが一緒に押し寄せてきたような複雑な感情でした。新しい心臓を頂いて、彼の胸の鼓動がトクトクと動いていたところを見た時は涙が出ました。ありがたい、その言葉に尽きる。あのシーンはやっぱり忘れられない」 移植を待つ入院中の子供たちと会場をオンラインでつなぎエールを送ります。移植を受け、現在は健康な人とほとんど変わらない生活を送る由宇人さんも一日一日を懸命に生きる子供たちを想います。 横山由宇人さん 「自分もこういう時期があったんだなと実感するところもあるし、諦めないで希望を持って絶対助かると思って待っていてほしい」 会場には、今年、特別な思いで参加している人もいました。拘束型心筋症を患い、去年は病院でエールを受けていた江本珠嬉さん(17)です。 江本珠嬉さん(Q、どんな思いで参加) 「知っている子が退院して会場にいたので、来年は自分もここにいたいなという気持ちでした。実際に参加してみて楽しいです」 江本さんの母・香順さん 「信じられないです。去年病院にいて今ここにいることが信じられない。まさか元気になれるとも、去年は思っていなかったので本当にありがたいです」 今年のイベントには初めて、心臓を提供した「ドナー」の家族も参加しました。 「すごく元気に動いている。よかったね。よかったです」 中里妙奈さんは去年、交通事故により18歳の長女・凜さんを亡くしました。「どこかで娘の一部が生きている」そう思えることが中里さんの救いになっているといいます。 中里妙奈さん 「看護学生だったんですね、娘は。中学の時から自分でドナー登録をして。完全なる娘の意思なので、私たちはそれ(臓器提供)に対して全く悔いはない。移植したから私たちも救われている部分もある。どこかで生きているというのがある」 移植を待つ患者に対し、臓器提供を行うドナーは常に不足しています。しかし、厚生労働省の調査で心臓を含む6つの臓器でドナーが現れても移植が見送りになった患者が去年、のべ3千人以上いたことが明らかになりました。多くは医学的理由によるものですが、人員や病床が確保できないなど、病院側の態勢が理由となったケースも約500人いたとみられています。これまで40件の心臓移植の実績がある東北大学病院の齋木佳克教授は東北大学では心臓移植の見送りはないとした上で背景をこう話します。 東北大学病院心臓血管外科 齋木佳克教授 「心臓移植施設の中でも心臓移植を多く行っている施設で生じたものと認識しています。ある施設は200人以上の患者が待機しています。そういう中で、ドナーが発生したときに上位のレシピエント候補者として上がる確率が非常に高い。そうすると(一つの)施設に集中することが起こる。手術室に限りがあるし、麻酔科医の人員にも限りがある。主に移植手術は夜から明け方にかけて、しかも土曜日曜に集中することが多い。そうしますと、うまく分配できないということになります」 現在、日本で心臓移植を実施できるのは東北大学を含めて12施設。齋木医師は、施設を増やす必要性を指摘します。 東北大学病院心臓血管外科 齋木佳克教授 「900例近い方が心臓移植を受けている時代において、一般的な治療に近い形で全国津々浦々の病院で徐々にできるようになってもいいのではないかという考え方になっています。分配の仕組みがスムーズにいっていない事象が現れたことを受けて、さらに移植施設を増やすことは選択肢になります」 先月末の時点で、心臓の移植希望者は825人。移植でしか救えない「命」があることを横山さん親子も強く訴えます。 横山由宇人さん 「普通の人と同じ生活ができるし、友達といっぱい遊べるし、アルバイトとか自分のやりたいことも全部できる。移植医療は素晴らしい医療だとちゃんと定着していってほしい」 横山さんの父・慎也さん 「愛する子供があす死んでしまうかもしれないという状況を長く経験していましたから。何でもない日常を送れることが本当に幸せなんだと改めて教えてくれたのが移植医療で、未来があって明るくて尊い究極の医療だと思います」
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