「電撃訪朝」のウラでプーチンと金正恩が最も恐怖していた「米韓特殊作戦部隊」の正体
米韓による特殊作戦能力の深化
2022年11月1日の拙稿(「金正恩と北朝鮮は『トップガン・マーヴェリック』を恐れている」映画にそっくりの米韓軍合同演習が進行中)でも触れたが、韓国は、年々増大する北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対抗するため、2017年以降、 1.差し迫った脅威に対抗すべく北朝鮮の核施設およびミサイル施設などに対し先制攻撃を行うシステム(キルチェーン) 2.韓国型ミサイル防衛システム(KAMD:Korea Air and Missile Defense) 3.大量反撃報復概念(KMPR:Korea Massive Punishment & Retaliation) という、「韓国型3軸体系」と名付けた戦略システムの構築に取り組んでいる。この3つ目の「KMPR」にあたっては、韓国国防部によると、「同時かつ大量の精密打撃が可能なミサイルなどの打撃戦力や、精鋭化された専門の特殊作戦部隊などを投入する」とされており、この特殊戦部隊による合同演習「チークナイフ」はまさにこの特殊作戦を行う部隊の能力向上を企図したものと考えられる。
何より金総書記が恐れる訓練
また、前述の拙稿でも紹介したが、2022年5月には、米陸軍デルタフォース(Delta Force)や同海軍ネイビーシールズ(Navy SEALs)などの特殊作戦部隊が輸送訓練などを行う米ミズーリ州のローズクランス空軍基地内の「上級航空輸送戦術訓練センター:AATTC(Advanced Airlift Tactics Training Center)」において、初めて米韓合同特殊任務訓練が行われ、同年10月にはこの成果を確認するため、駐韓米軍特殊戦司令部(SOCKR:U.S.Special Operations Command-Korea)による、米韓の特殊部隊と攻撃ヘリ部隊などが参加した大規模な夜間合同演習が行われ、この内容が一部公開された。 このような、「斬首作戦」を匂わせるような米韓の特殊部隊による合同訓練ほど北朝鮮の金正恩総書記にとって恐ろしい訓練は他にないだろう。だからこそ、この手の米韓演習に対抗して、これまで北朝鮮は弾道ミサイル発射などの対抗措置をとってきたのである。 今回、意図的なものかは不明ながら、プーチン大統領の訪朝という時期に合わせてこの類の演習が行われたことは刮目すべきである。これが、金総書記やプーチン大統領にとってかなりのプレッシャーになっていることは間違いないだろう。 プーチン大統領の訪朝日程が直前まで伝えられず、しかも報道された18日が19日未明にずれたのも、このような影響を受けてのことなのかも知れない。 では、プーチン訪朝におけるロシア側の体制や中国の動向については何が起きていたのか。後編記事『「プーチン電撃訪朝」でもまさかの「ロシア空軍による事前偵察ゼロ」...推測される「ロシアの窮状」と「中国の動向」』につづく。
鈴木 衛士(元航空自衛隊情報幹部)