「やめるという決断ができなかった」カナダで宇野昌磨が明かした「燃えつきの正体」と「気になる今後」
結果より、その発言に大きな衝撃が走った。3月24日までカナダ・モントリオールで開催されたフィギュアスケートの世界選手権で4位に終わり、日本男子初の3連覇を逃した直後、宇野昌磨(26・トヨタ自動車)はミックスゾーンで取材に応じた。 【画像】すごいラブラブ…!本田真凜&宇野昌磨「恋人つなぎデート」現場写真…! ショートプログラム(SP)は3位だったが、フリーで歴代最高得点となる227.79点をマークして逆転優勝した19歳のイリア・マリニン(米国)について記者に問われたときのことだった。 「佐藤駿君、三浦佳生君、(鍵山)優真君、これから本当に頑張ってねって感じですね。マジで。ヤバいなとは思いますね。彼はこれから時代を築いていくと思う。素晴らしい才能を持った選手なので、すごいという言葉以外、出てこないですね。みんな大変だと思うんですけれども、彼のような存在がいることによって、技術力だったり、みんながそれを乗り越えようと向上してくスポーツになっていくと思うので、楽しみだなと思います」 どこか人ごとのように宇野は答えたのだ。 違和感を感じた記者がすぐさま「そこで戦いたいという気持ちは?」と宇野に問うたが、その答えはあまりに率直だった。 「いや、無理っすよ。僕はもう最善を尽くしました。多分、みんなよりジャンプの練習をしてきたと思うんですよ。(昨年12月の)全日本終わってからも、これまでも、今出てる選手の中で(最も多く)ジャンプを跳んできました。それでも試合でうまくいかないのは、運もありますけれども、彼はもう僕と別の次元でスケートをしているっていうのは間違いない。僕は必死に食らいつくって感じでしたけれども、彼にとっての当たり前に、僕の絞り出したスケートっていうのがかなわなかったっていうのは紛れもない事実。でも、優真君の表現力だったり、ジャンプの完成度の高さっていうのは知っている。(マリニンと)切磋琢磨しながら頑張ってほしいなと思ってます」 今後については「自分ともう一度向き合いたいなとは思っています。この場で何か断言することはできません。もうちょっと落ち着いたらちゃんと話したい」としたが、その胸中にはある種の決断が下されているように、その場にいた誰しもが受け止めていた。 「心残りがない練習はできた。やれることを毎日限界までやってきた」 大会前から宇野は、これまでにないほどに強気だった。昨年12月のGPファイナル後に3年間使ってきたスケート靴が壊れ、その修理・調整に時間を要し、決して完璧と言える状態ではなかったにもかかわらず、だ。 3月21日のショートプログラムはたしかに、強気な言葉が出るのも納得の演技だった。今季、回転不足が目立っていた4回転フリップは跳躍の高さからスムーズな着氷まで一連の流れが非の打ちどころがないほどに美しく、宇野は「今までで一番いいフリップを跳ぶことができた」と自画絶賛。ジャッジ2人が最高評価の「5」をつけた。4回転、3回転の連続トーループ、演技後半のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も鮮やかに決め、スピン、ステップは最高難度のレベル4をマークした。 フィニッシュポーズの体をのけぞらせた体勢から両拳を振り下ろし、リンクサイドで出迎えたコーチのステファン・ランビエル氏(39)からは「ビューティフル・プログラム」と称賛されて抱きしめられた。今季世界最高得点の「107.72」との評価に、宇野も「目一杯演技していたので、素晴らしいショートだった」と思わず相好を崩した。 優勝を争う鍵山、マリニンもミスのない演技をそろえた最高峰のSPで首位に立ち、3連覇へ向けてこれ以上ないスタートを切ったかに見えたが、2日後のフリーでまさかの結果が待っていた。 4回転ループで転倒し、4回転フリップは着氷の際に氷上に手をついた。序盤の得点源で大きなミスを重ね、窮地に追い込まれる。悪い流れを止められないまま、演技後半のトリプルアクセルからの3連続ジャンプも、最後の3回転フリップで着氷が大きく乱れ、6位と大失速したのだ。 演技直後は苦笑いし、「今日のフリーは10年くらい見返さない」と自嘲気味に語ったものの、吹っ切れた様子が印象的だった。 「もっとこうしておけば良かったとか、そういうことを思わない(ぐらいの)練習を積めてきたと思います。結果的にうまくはいきませんでしたけれども、なんか自分らしいなとは思いました。これだけやってきても、最後の一番大事な場面で調整しきれなかったところも、ショートプログラムが自分にとっても結構いい演技ができたっていうのも含め、思い出に残る大会になりましたし、清々しい気持ちではありますね」 そして、フリーから一夜明けた24日には、’22年北京冬季五輪後の葛藤を初めて口にしたのだ。 北京五輪を節目に五輪2連覇の羽生結弦(29)はプロに転向、北京五輪金メダルのネイサン・チェン(24)は休養に入った。最大の目標であり、モチベーションの全てだった2人が競技会から去ったことで「僕の本当の競技者の精神(の維持)っていうのは、あの2人が現役を退いた時点で結構難しいものにはなっていたと思います」と吐露した。 突如として自身が第一人者の立場となったことに戸惑い「やらなきゃという使命感から、この2年間は何とかつなぎましたし、正直、今季も(現役を)やめるという決断ができなくて、続けたっていう感じ」とこぼした。 そんな状況で宇野は、羽生、チェンがそうであったように、若手のお手本となることに競技を続ける意義を見いだした。そしてマリニンという新世代の旗手が台頭。その姿を見て宇野の中に生まれたのは――闘争心ではなく、安堵感だったのだろう。宇野が残した言葉は、今季のモチベーションの維持がいかに難しかったかを物語っていた。 「マリニン君にとっていい存在でいたいという気持ちは本当にありましたけれど、心から『勝ちたい』という気持ちになれなかったのは、年齢なのか、それともネイサンとか、ゆづくんの存在が、僕の中で大きかったのもあるかもしれない」 来季も競技会で宇野の演技を見ることができるのか。それともプロという新たな道を選ぶのか。日本のトップの選択に注目が集まっている。 取材・文:秦野大知
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