東京五輪挑戦より世界陸上を選択したプロマラソンランナー川内優輝の選択は正しかったのか?
手にできる金銭面でも実は世界選手権よりも、ロンドン、ベルリン、東京などの都市レースの方がずっといい。たとえば、ドバイの優勝賞金は20万ドル(約2200万円)で、世界選手権の2.5倍だ。川内も昨年のボストンを制して、15万ドル(約1600万円)を手にしている。さらにコースレコードや世界記録など好タイムをマークすることで、ボーナスが上乗せされる。また主な招待選手には出場料が発生するため、世界のトップは1回のレースで数千万円を稼ぐことが可能なのだ。 実際、リオ五輪男子マラソンの金メダリスト、エリウド・キプチョゲ(ケニア)は、マラソンで一度も世界選手権に出場していない。そのかわり、近い時期に行われる9月のベルリンマラソンに4度出場。毎回好タイムを狙い、昨年は2時間1分39秒の世界記録を樹立している。 そういう意味では、川内の選択は世界トップクラスのプロランナーとは真逆といえるかもしれない。では、なぜ川内はドーハ世界選手権に出場するのか。2年前のロンドン世界選手権で入賞にあと一歩届かなかったことと、プロランナーに転向したことが大きいという。 「ロンドンでは転倒や看板にぶつかるアクシデントがあり、3秒差で入賞を逃しました。そのときは日本代表を精一杯やったという気持ちでしたが、しばらくして、入賞以上の結果を残したい、そういう思いがふつふつと沸いてきたんです。当時は公務員でしたので、直前の練習も涼しいところでできませんでした。日本代表をやめるか、公務員をやめるかの選択で、公務員をやめたので、ドーハ世界選手権ではしっかりと結果を残したいと思います」 プロランナーといえども、企業とスポンサー契約をしている選手はごくわずか。川内は大手損保の所属で、加えてアシックスともアドバイザリー契約を結んでいる。 出場料や賞金がなくても、食うには困らない状況だ。目先のお金よりも、自分自身のチャレンジを優先できる環境にある。 東京五輪については、「暑さが苦手なため、東京五輪は深夜スタートのドーハ世界選手権より戦える可能性は少ない」と冷静に判断した。ドーハ世界選手権のスタートは23時59分。気温25度前後、湿度60%前後の気象コンディションが想定されている。直射日光がないため、比較的、涼しいレースで勝負することを選んだのだ。 川内は3月のびわ湖毎日マラソンで日本人2位(2時間9分21秒)に入ったことで、ドーハ世界選手権の代表を確信。「代表発表を待っていたのでは間に合わない」と、その時点でドーハ世界選手権までのスケジュールを組み立てている。従来通り、レースに出場しながら、本番に向けて合わせていく。 6月下旬から北海道・釧路で2か月の合宿を行い、6月16日の隠岐の島ウルトラマラソン(50km)、7月7日のゴールドコーストマラソン、7月28日の釧路湿原マラソン(30km)、8月25日のニューカレドニア国際マラソン、9月1日の日本最北端わっかない平和マラソンにも出場予定。最後の1か月は調整期間で、暑熱順化を進めていくという。