クレイジーケンバンドに「今までなかった曲調」をもたらした「愛犬の死」 横山剣が「新作は全曲最高」と言い切れる根拠
新曲や新アルバムの制作はそこそこにして、ライブでは往年の名曲、定番を披露するというベテランも珍しくない。そんな中、クレイジーケンバンドはいまだに新作をコンスタントに発表し続けている数少ない存在だ。9月18日に発表された新作「火星」は、実に24作目のオリジナルアルバム。ファーストアルバムが1998年なので、26年間で24枚というワーカホリックぶりである。その発売を機に、今年64歳になったリーダー横山剣がキャリアを振り返りながら、最新作から衰えぬ創作意欲について語った。【ライター/神舘和典】 【写真】大笑いしてもイケオジすぎ…! 新作「火星」のジャケでもクールな横山剣 (全2回の第1回) ***
焼肉店「火星」のことだった
「東洋一のサウンド・マシーン」「歌うメロディー・メイカー」を自称する横山剣の率いるクレイジーケンバンド(CKB)が、新しいアルバムを発表した。タイトルは「火星」。テーマは天体? と思いきや、火星とは横浜市鶴見区のゴム通りにかつてあった焼肉店の店名だという。 「ゴム通りは、太平洋戦争前に横浜護謨(ヨコハマタイヤ)の工場があった道路です。1990年代にワイルドブルーヨコハマ(2001年に閉園した屋内プール施設)ができて、そのプールで遊んだ後、火星で焼肉を食べていました。ネーミングだけでスペイシーな気持ちになるでしょ?」 そう話す横山。アルバムタイトルが「火星」になったことについて、わかったようなわからないような説明だ。ただし、サウンドはいつも通りの高クオリティである。バキッとタイトなドラムス、うねうねと太く歌うベース、歪みながら洗練を感じさせられるギター・ソロ、色鮮やかなキーボード……。そんな演奏をバックに、ゴム通りを行き来してナンパする主人公を、横山が男臭い声で歌う。
身体や心が欲しがっている音が出てくる
コロナ禍以降、CKBは変化し、進化の時期を迎えている。ホーン・セクションを合わせて11人編成の大所帯バンドは、リズムの要であるドラマーと、女性コーラスがメンバーチェンジしたばかりだ。 その結果、バンドはよりグルーヴィーになった。全員の演奏がいきいきとしてきた。バンドは生きものであることを教えられる。 「音楽って、演奏する自分が欲しい音が自然に生まれるものです。身体や心が欲しがっている音が出てくる」 多いのはメンバーだけではない。CKBのアルバムはいつも20曲近く収録されていた。ところが、「火星」は16曲で本編は12曲に減った。 「今回は曲数を少なくしようと試みました。リスナーからもスタッフからも、曲が多過ぎると言われたので、その意見を尊重したんです。でもね、減らすと調子が狂っちゃうの。それでも、減らしたことは必ずしもマイナスではありませんでした。『Rainbow Drive』『Percolaion』『霧子』と次々とメロディーがわいてきちゃって、フレーズが生まれちゃって、それを少ない曲の中にどんどん詰め込んでいったんですよ。 今までよりも濃密になりました。全曲最高です。家の増築改築のようにあちこち修正し苦労を重ね、曲を徹底的に磨き上げていきました。12曲全曲最高がいいのか。20曲のなかに箸休めが2、3曲あるほうがいいのか。次はまたよく考えます。コース料理は、サラダやスープがあってこそ、メインのお皿が際立つでしょ。箸休めがあってもいいと、今も少し思っています」