<甲子園交流試合・2020センバツ32校>聖地、特別な夏 かち割り売ってない/スタンド拍手のみ
10日開幕した2020年甲子園高校野球交流試合(日本高校野球連盟主催、毎日新聞社、朝日新聞社後援)。新型コロナウイルスの感染防止のため、グラウンドにもスタンドにも例年と違う風景が広がった。開会式は開幕試合の2校のみが参加し、バックスクリーンの大型ビジョンに各校ナインの集合写真が映し出された。選手宣誓でも開幕試合の2校の主将が言葉をつなぎ、全国の高校球児の思いを力強く語った。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 真夏に銀傘の下に座る観戦者らはマスクを着用し、甲子園名物の「かち割り氷」も阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)内では売っていない。普段の夏の甲子園では見慣れない光景だった。試合の運営には新型コロナウイルスの感染予防に衛生管理などさまざまな対策が取られた。 球場の入り口には手指の消毒液が設置され、入場者はサーモグラフィーで体温検査を受ける。通常なら売店が並ぶコンコースはシャッター通りのよう。一塁側と三塁側にそれぞれ1店のみオープンした。 開会式に参加した大分商と花咲徳栄(埼玉)の選手らは間隔を確保しながら2列に交互になって整列。スタンドの部員や保護者はマスク着用で2席空けて座り、拍手と手拍子による控えめな応援となった。 試合では日ごろの習慣との違いに戸惑う様子も。衛生管理のため投手ごとに決まったロージンバッグを使い、ベンチへ戻る度に持ち帰ることになっていたが、普段の通りマウンドに置いたままにし、別の選手が回収に走った。甲子園で何万人もの歓声を受けながら野球をすることはできなかったが、大分商の川瀬堅斗主将(3年)は「無観客でもマウンドに立った時の雰囲気に、やっぱり甲子園はすごいんだなと思った」と話した。【荻野公一、園部仁史】 ◆「最後まで戦い抜く」 宣誓Zoomで練習 ◇大分商・川瀬堅斗主将(3年) 「限られたチームしか甲子園に立てず、全国の球児が悔しい思いをしている。だから絶対に手を抜けない」。大分商の川瀬堅斗主将(3年)は、この舞台に立つ重責を感じていた。今春、23年ぶりの切符を手にしたセンバツが中止になった。「甲子園に行けずに高校生活が終わるのか」。それでも主将として「1%でも可能性を信じろ」と部員を鼓舞した。 兄はプロ野球・ソフトバンクの川瀬晃選手。自身も最速148キロの速球を誇る本格派右腕でプロのスカウトも注目する。 中学3年の10月、車にはねられて頭を骨折。1カ月半の入院を強いられ、後遺症の不安を抱えながら、高校入学後は夢の甲子園を目指した。 選手宣誓は前半を担当し、基本的な内容は自分で考えた。交流試合の開催で「再び希望を見いだし諦めずにここまで来ることができました」と大きな感謝を示し、ウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を使って一緒に宣誓の練習をした花咲徳栄(埼玉)の井上朋也主将(3年)に言葉を引き継いだ。【辻本知大、園部仁史】 ◇花咲徳栄・井上朋也主将(3年) 2019年秋まで高校通算47本塁打のスラッガーは、3度目の甲子園の土を踏んだ。花咲徳栄の井上主将の甲子園デビューは前回大会覇者として乗り込んだ18年夏。1回戦で終盤に逆転の適時打を放って注目を集めた。チームはセンバツ出場を決め、順調に成長を続けていたが、新型コロナウイルスの影響でセンバツも夏の選手権大会も中止に。「俺たちついてない世代だな」。同級生たちと笑って話し、割り切った。 プロを見据える。休校による活動自粛期間中は、全国制覇した17年夏の4番打者だった野村佑希選手(北海道日本ハム)にも相談。筋力トレーニングも毎日続け、「自分と向き合う時間になった」と振り返る。 選手宣誓では、大分商の川瀬主将の宣誓に続けて「一人一人の努力が皆を救い、地域を救い、新しい日本を創ります」と力強く主張。「(九州の豪雨災害で)被災された方々をはじめ多くの皆様に明日への勇気と活力を与えられるよう」と述べ、最後は川瀬主将と声をそろえて「最後まで戦い抜くことをここに誓います」と宣誓した。【成澤隼人、荻野公一】