紳士靴の最高峰、ジョンロブの現在と未来──フィリップ・ゴンザレスCEOにインタビュー
紳士靴の最高峰であるジョンロブ。伝統的なドレスシューズをはじめ、コンフォートなカジュアルスニーカーなど多彩なラインナップを打ち出し注目を集めている。しなやかに時代に則して見える歴史ある靴匠は、これからどう発展していくのか? この春、日本国内にオープンした新店舗のために来日したフィリップ・ゴンザレスCEOに、ジョンロブの未来を聞いた。 写真の記事を読む
顧客の“24時間”に寄り添える靴作りを目指して
ドレスシューズのトップブランドであるジョンロブは、世界はもちろん日本でも抜群のステータスを誇る歴史的なブランドだ。ジョンロブといえば、クラシックな黒革のプレーントウやストレートチップを思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし昨今、同ブランドではカジュアルなアンラインドシューズやスニーカー風のコンフォートシューズも数多くリリースしている。恐らくそれはメンズスタイルが世界的にカジュアル傾向に振れていることと関係があるのだろう。 しかし、ここにきてオーセンティックなスーツをはじめ、シックなドレススタイルもまた復活の兆し。そんな今季、革靴の殿堂は東京・丸の内の旗艦店をリニューアルし、4月27日には京都・新門前に新店をオープンさせ注目を集めている。それらの店舗はジョンロブの新しいコンセプトをふんだんに取り入れており、次世代への方向性を強く感じさせる仕上りが大きな特徴という。 そこでジョンロブの目指す行き先を改めて確かめるべく、新店舗オープンのため駆けつけた本国CEOのフィリップ・ゴンザレス氏に、これからのジョンロブについて訊いた。 ──ジョンロブの新しい店舗が東京の丸の内と京都に立て続けにオープンします。それぞれ独自のコンセプトを備えているということですが、ポイントは何でしょう? 京都は日本のなかでも特別な歴史を持つ場所です。極めて日本的な伝統を残した地域ということで、その良さを生かした店舗作りを行いました。市中の典型的なスタイルであった“町屋”のテイストをフィーチャーした建築やインテリアが大きなポイントです。和の雰囲気に加え、内部の中心には壺庭などもしつらえ伝統的な京スタイルの店舗となっています。 しかし、これはある種例外であり、丸の内の店舗のほうはジョンロブにおけるグローバルな最新スタイルが見どころです。フランスのアーキテクトスタジオ、「ciguë」が手掛ける設計であり、主に2つのセクションを持つ内装となっています。フロント部分は明るく寛いだクリーム色のトーンでまとめており、既製品のコレクションが並びます。その奥にステンレス製のカプセルを模した空間がセットされ、内側にジョンロブのDNAを詰め込んでいます。具体的にはシューケアやメンテナンスを行うカウンター、そしてバイリクエスト(パターンオーダー)やビスポークが楽しめる特別室を設けています。靴を選びやすいというだけでなく、靴と親しむ体験を提供することも新しい店舗のコンセプトです。 ──ジョンロブにとって、日本というマーケットをどのようにとらえていますか? 日本人は職人的なアイテムへの造詣があるように感じます。そして、歴史に対しリスペクトを持つという見識も備えています。それゆえに1866年創業となるジョンロブとそのプロダクトに対し、深い理解があると感じています。高級であることと同時に、熟練の技術に愛情を抱いていただけるのは非常に嬉しいことですから、私たちは日本を特別なマーケットと考えています。とはいえ他国と異なるサービスを実施することを考えてはいません。私たちはベストな物作りを貫き、どこの場所でも最高の製品を届けることを使命としています。 ただ、新店舗のオープンや特別なアニバーサリーには、スペシャルエディションを用意してお祝いをします。そのときの製品には、その国や場所をイメージしたデザインや素材を使います。たとえば京都店のオープンでは、ジョンロブのレザーを使用した和の雰囲気あふれる草履、そして丸の内店ではハイエンドな都市生活者をイメージした、スエードのクロコダイルシューズを用意しました。 ──ファッションのスポーティなカジュアル化がよく話題となっています。しかし、スーツやシックなフォーマルスタイルなどのドレス回帰の兆候もあります。そういったトレンドのなか、ジョンロブではどのようなスタイルのシューズを打ち出していく予定ですか? ジョンロブでは常にハイクオリティなシューズ作りを心掛けています。確かにここ最近のメンズスタイルのカジュアル化はファッションシーンにとって大きなトレンドです。オンタイムはドレススタイルで出掛け、オフは心から寛げる装いを楽しむ顧客も増えています。そういったニーズを考慮し、ジョンロブでは顧客の24時間に寄り添えるラインナップを構築しています。トラディショナルな本格革靴から、スニーカーライクなカジュアルシューズまでバランス良く展開するよう心掛けています。ポイントはどのような靴でもジョ ロブらしく職人的技術やサヴォワフェール、そして高級な素材を用いること。それが我々のスタイルです。カジュアルなスニーカーであっても手縫いをほどこしたりジョンロブが誇るクラフツマンシップが宿っています。 ──今季の新作にはこれまでジョンロブではなかったロックをテーマにしたモデルなどの新しいスタイルが登場しました。今後も継続する予定ですか? ジョンロブがこれまで大切にしてきたクラシックなラインと、時代を反映したプレステージラインなど新しいラインとの両方を、バランス良く打ち出していきたいと考えています。ポイントはどちらもジョンロブであり、高級な素材と熟練の職人技を駆使したプロダクトであることです。 新作でロンドンにフォーカスしたのは、英国人らしいアティチュードに対し、我々が敬意を持っているから。歴史的に見ても英国人はいろいろな要素をミックスして、新しいエッセンスを作りあげる名手だと感じます。ファッションもいろいろな歴史や文化を取り混ぜて変遷してきました。これからも生みだされるだろう色々な装いに寄り添える靴として、ジョンロブも進化していきたいと考えています。 Philippe Gonzalez フィリップ・ゴンザレス ジョンロブCEO。2008年にエルメス・グループのブコール社におけるアーティスティック・ディレクターに就任し、その後エルメスの顧客向けテキスタイル部門責任者として活躍。2018年12月より現職。