株価26倍のレーザーテック 新任CFOが築き上げたIRの力
「どうにか間に合った」──。2022年から半導体製造関連装置大手レーザーテックの最高財務責任者(CFO)を務める、三澤祐太朗氏はこんな安堵の声を漏らす。 【関連画像】三澤氏(左から2番目)はIRに対応できる人員を社外からの採用で確保してきた(写真=古立 康三) 半導体の製造に使う最先端の「マスク検査装置」と呼ばれる機器で世界トップシェアを握るレーザーテックは、日経平均株価4万円突破の原動力となった代表的な企業の一つ。18年末の株価は1401円だったが、23年末には3万7170円と26.5倍に。24年3月22日には上場来高値の4万3880円に達している。人工知能(AI)の普及などで半導体需要が伸びる中、投資家から注目されてきた。 業績も好調で、24年6月期の連結純利益は490億円と過去最高になる見通し。23年末時点の自己資本比率は47.4%、現預金も月次の売上高の2倍近くあるという健全な財務状況の中で、三澤氏は何と闘っていたというのか。 ●投資家との面談が3倍以上に 同氏が手当てに追われていたのは、投資家向け広報(IR)の人材だ。三澤氏が証券会社からレーザーテックに転じた19年、IR担当は三澤氏しかいなかった。市場の注目度が高まる中で同社の株主数も増え、19年6月末の6599人から、23年6月末には5万3611人まで急拡大。事業戦略や資金配分などの戦略を説明するIRの体制整備が不可欠になっていたのだ。 「初めのうちは、当社が何をしている会社か分からない方も多かった。今では当社の技術も多くの投資家に理解してもらえた」(三澤氏)。上場企業として企業価値向上への責任を負う以上、投資家への説明を怠るわけにはいかない。 米国出張では2社の機関投資家に会うためにソルトレークシティーまで出向いたこともある。1年間で面談した投資家の延べ人数は19年6月期に約700人だったが、24年6月期は3月末時点で2300人超と3倍以上に膨らんでいる。 こうなると三澤氏1人では業務が回らない。とはいえ財務などの知識を踏まえて資本市場と向き合える人材は、普通のルートではなかなか採用できなかった。古巣の証券会社から若手を採用したり、社員の知人も受け入れたりした。1年に1人のペースで人員を増やし、現在はIR担当者が6人まで増加した。 説明内容に対する要求水準も上がった。その代表格が二酸化炭素(CO2)排出量などESG(環境・社会・企業統治)に関する開示要求だ。