サッカー日本代表は「SBの優先順位があやふや…」スペイン人指導者が苦戦するサイドバックに提言【アジアカップ2023】
AFCアジアカップカタール2023に出場しているサッカー日本代表は、グループステージを2勝1敗という成績で終えた。決勝トーナメント進出こそ決めたものの、優勝するためには解決すべき課題を抱えている。UEFA PROライセンスを持つアレックス・ラレアはここまでの戦いをどう見ているのか。(取材・文:川原宏樹)
●サッカー日本代表が修正すべきポイントは… AFCアジアカップに参戦する日本代表はグループDを2勝1敗の成績で2位となり、ノックアウトラウンド進出を決めた。トーナメント1回戦では31日にバーレーンと対戦することになったが、日本代表にはそれまでに修正すべき点がある。UEFA PROライセンス保持者のアレックス・ラレアは攻守両面において「修正すべき点はひとつ」と主張する。グループステージを振り返り、先読みの遅さやロングボールの対応について指摘したアレックスは、修正点に何をピックアップしたのだろうか。 グループステージの戦いを見たアレックスは主にディフェンス面での脆弱性を指摘したが、今後の課題や修正点について話す前に、日本代表の現有戦力を改めて確認するように攻撃面のことを振り返った。 「今の日本には質の高い選手がそろっているのは間違いない事実です。ベトナム戦で見せた中村敬斗のビューティフルゴールにしても、インドネシア戦で上田綺世が活躍したことにしても、アジアのレベルでは目立つ存在であることを示していました」 「先に話したとおり、ベトナム戦やイラク戦では感覚のずれのようなものが感じられましたが、インドネシア戦では良くなっていたように思います。アジアでは抜けている存在として上田を挙げましたが、インドネシア戦では1人で2人の相手を引きつけて味方のためにスペースをつくるなどオフ・ザ・ボールの動きにも優れており、得点以外の場面でも重要な役割を担っていました」 中村や上田以外にも優れた選手を挙げるアレックスは、彼らが織りなすコンビネーションがアジアではトップクラスであると主張する。 ●サイドバックへの注文「彼らをより輝かせるために…」 「彼ら以外にも堂安律や久保建英はポジションエリアにとらわれることなく、いろいろなところへ動いてチャンスメイクすること可能です。南野拓実は前線で機転がきいたプレーができ、ラストパスや得点に絡むことができます。インドネシア戦ではそういった彼らのコンビネーションによって、これまでの試合よりいい場面が見られました。このように質の高い選手が見せる攻撃は、アジアのなかではかなり傑出しています」 傑出した攻撃をよりよくするためにすべきことと、守備の脆弱性を修正するためのポイントは共通しており、答えは1つしかないと断言する。 「先に挙げた選手らは質の高いコンビネーションを生み出せます。一方で、ほとんどの選手が内側にポジションを取りたがります。そういった彼らをより輝かせるためには、サイドバックのポジショニングが重要になります。サイドバックは攻撃時にもっと幅を取りつつ、より高い位置を取らなければなりません」 「インドネシア戦では毎熊晟矢や中山雄太が、これまでの試合よりも積極的に前へ出て高い位置で幅のあるポジショニングができていました。そのことで先に挙げたタレント性のある選手らが躍動することになったのです」 「このように思い切ったオーバーラップや高い位置で幅を取るポジショニングは、今後の日本代表のキーポイントになります。なぜなら、高い位置で幅を取ると、必然的に相手のディフェンスラインは広がりスペースができるからです。相手の守備網を広げられないと、スペースが狭い状態でのボールの前進を強いられてしまい、いかに質の高い選手とはいえ苦しい状況に陥ってしまいます。彼らの才能を生かすためのスペースをつくる動きとして、サイドバックのポジショニングは重要なのです」 ただ、そういった動きも出場している選手によっては変える必要があるとも警笛を鳴らす。 ●指導者ならではの指摘「具体的な選手起用に関する明言は…」 「日本にはサイドライン際でのプレーを得意とする純粋なウイングは少ないですよね。伊東純也や負傷している三笘薫は比較的に外でプレーするウイングといえます。彼らのようにサイドライン際に張ったポジショニングをするウイングが出場している場合には、内側へ入っていけるような特徴を持つサイドバックのほうが相応しいでしょう。いずれにしても誰が外側へ広げるようなポジショニングをするのかをマネジメントすることが大切です」 攻撃をよりスムーズに潤滑させるために、サイドバックが取るポジションの重要性を説いた。そのポジショニングはときに相手のディフェンスラインと並ぶくらいの高い位置を取るべきだと付け加えている。 起用する選手によってポジショニングを変更しなければならないと説明したアレックスは、ここで代表チームならではの難しさについて言及している。ベトナム戦やイラク戦では試合中に伊東が右から左へポジションチェンジした。そのことでサイドバックの役割も試合中に変わるということが起こる。こういったことは代表チームではめずらしくないという。 「代表チームはクラブチームに比べて活動時間が短くなるのは、周知の事実として認識されていることでしょう。それは日本にかぎらず、どの国の代表チームでも同じ。そういった活動時間の短い代表チームの特徴として、戦術を変更するときは選手交代に頼る傾向にあります。極端にいえば、出場する選手によって戦術は変わってしまいます」 「特長の違う選手を起用することで戦術を変えることになるのですが、活動時間も短いなかでの組み合わせにはどうしても即興性がつきまといます。その即興性がうまく働くこともあれば、そうならないことも多々あります。長く一緒に活動しているとはいえ、代表チームは年間で10数試合しか行いません。だから、代表チームには必ずといっていいほど即興性がつきまとい、成否両方の可能性を秘めているのです」 そういった即興性がつきまとう代表チームだからこそ、さまざまな選手の起用法があると持論を展開した。 「具体的な選手起用に関する明言は避けるべきです。なぜなら、チームの外側にいる私たちよりも内側にいる森保一監督のほうが選手らのことを理解しているからです」 「監督はコンディションなどさまざまな事情を加味して選手を起用しています。たとえば、グループステージでは多くの選手を起用しました。決勝までを見据えてのことだと思われますが、単に疲労を考慮しただけでなく即興性によるマイナス要素を軽減したかったのかもしれません。このようにさまざまな思惑があってのことだと思うので、そういった起用が今後の戦いでうまく作用することを祈るばかりです」 修正ポイントとは話がずれてしまったが、代表チームの本質を理解するうえでは欠かせないファクターについて、アレックスは言及した。 ●サイドバックの優先順位「スペースを消す役割を担う」 グループステージにおける戦いでディフェンスラインの脆弱性を見せた日本代表だが、アレックスはそのひとつとしてロングボールへの弱さを露呈したことを挙げた。ノックアウトステージでの戦いでも、同様にディフェンスラインの裏へロングボールを蹴り込んでくるチームとの対戦が予想される。そういったロングボールの対応に関してもサイドバックのポジショニングが重要になると説く。 「相手FWに向けて蹴り込まれたロングボールに対しては、基本的にセンターバックが競りにいくことになります。そのとき必然的に競りにいったセンターバックの選手が前へ出て、整ったディフェンスラインを壊すことになるわけです。そこでできてしまうスペースを消す役割を担うのがサイドバックになります。ロングボールが放り込まれたとき、サイドバックは内側へ絞ったポジショニングで最も危険になり得るスペースのカバーリングを行わなければなりません」 続けて、守備時の優先順位について説明したアレックスは、「その整理が必要」と修正点を挙げた。 「菅原由勢が出場していた試合では板倉滉との間のスペースを狙われていました。菅原は外側に位置する相手に引っ張れすぎて、内側のスペースを消すポジショニングができていませんでした。そこをうまく相手に突かれるシーンは何度もありましたよね。失点につながる危険性から考えると、外側よりも中央のほうが高くなります」 「それを踏まえると、必然的に守るべき位置、消さなければならないスペースの優先順位が決まってきます。その優先順位があやふやに感じられるところがあったので、チームとしてその優先順位を整理することが大切になるでしょう」 攻守両面でサイドバックのポジショニングを修正する必要があると見解を語ったアレックスは、それ以前にやるべきことがあると強調する。 ●ロングボールに苦しんだ理由「大きな要因と考えられるのは…」 「そもそも本来は、自由にロングボールを蹴らせないようにしなければなりません。オープンプレーのなかではさほど多くなかったにせよ、相手がフリーで蹴る場面をつくらせないようにすべきです。そのために前線からのプレッシングは必須になるのですが、そのときに前へいく選手と後ろへ下がる選手がいるといったようにバラバラの状況になってはなりません」 「ボールホルダーへのアプローチ時にはチームが連動する必要があり、チームとしての意思統一ができていないとうまく機能しないでしょう。これまではできていたことなので、大きな要因と考えられるのは集中力だと思います」 日本代表はその集中力の欠如が一端となり、早い時間帯での失点など予期せぬ状況を生み出してしまった。そのことで感覚を狂わされ攻守ともに歯車にずれが生じたのでないかと、アレックスは分析している。そういった状態に陥らないためにも「集中力の強度が必要」と強く訴えた。 今回のアジアカップのように短期間の大きな大会では、修正点を抱える強豪が調子を取り戻せずに敗退することは多々あり、そのことはこれまでの歴史が証明している。現状の日本代表もその可能性を十分に秘めており、修正は急務となっている。 「アジアカップのような短期間で行われる大会では、チームにとって本当に時間がないことでしょう。試合が続くのでリカバリーの時間も必要になることを考慮すると、次の試合に向けたトレーニングの時間はほとんどありません。そういった状況のなか指導者ができることは少ないのですが、まずはできるだけシンプルにわかりやすくて選手らに説明することが必要になります。多くは語らず何をすべきかを明確にして、とにかくわりやすく伝えなければなりません」 修正点を挙げ危機感を露わにしたアレックスだが、それでも「日本が優勝すると信じていますよ」と語気を強めた。それは日本代表はそもそものポテンシャルが高いということに起因しているうえ、修正すべきポイントも明らかになっているからだ。それを踏まえると、あとは良くなるだけなのだろう。 (取材・文:川原宏樹)
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