なぜ「交通事故は判決が甘い」と批判されるのか 時速194キロの死亡事故、飲酒追突で3歳と2歳の少女2人が焼死……悪質なドライバーを「殺人罪」で起訴できない理由
第1回【「時速194キロ」で死亡事故も“危険運転”ではないのか…被告側は「最高速度250キロの高級スポーツカーなので制御困難ではなかった」と主張】からの続き──。2021年2月、当時19歳だった被告(23)が、大分市で時速194キロという猛スピードで車を運転して衝突事故を起こし、自動車を運転していた男性会社員・小柳憲さん(当時50)を死亡させた。(全2回の第2回) 【写真】なぜ「危険運転」の罪に問えないのか…遺族の切なる思いに賛同して驚くべき数の署名が集まった ***
この事故をめぐる裁判に、遂に判決が下った。被告に対して検察側は、危険運転致死罪で懲役12年を求刑。一方、弁護側は“危険運転”は成立せず、過失運転致死罪が適用されるべきだと訴えていた。 SNSには「懲役12年でも軽すぎる」と厳罰を求める意見が殺到した。Xから代表的なものをピックアップしてみよう。《無期懲役でも償い足りんぐらいだわ》、《制御不能は明らかですよ。20年でも足りない》、《命の尊さを嘲笑うような裁判》、《危険運転は殺人と変わらない》──。 だが、殺人事件などと比べ、報じられる機会が限られる交通事故の裁判では、我々の想像より軽い判決が今も出ている。例えば死亡ひき逃げ事件はXでも厳罰化を求める声が多いが、執行猶予が付くことも珍しくない。 昨年10月、青森県内の地方自治体に勤める職員はスマホを操作しながら乗用車を運転し、路上に横たわっていた90歳の男性をひいて死亡させ、そのまま逃走した。青森地裁は今年1月、懲役3年、執行猶予5年の判決を下した。 5月には長崎県佐世保市で、公益社団法人の要職に就いていた男性が乗用車を運転中、道路を横断していた76歳の男性をはねて死亡させ、そのまま逃走した。長崎地裁佐世保支部は9月、懲役3年、執行猶予5年の判決を下した。
東名高速飲酒運転事故の衝撃
弁護士の田中喜代重氏は1979年に検事に任官し、横浜、富山、東京、熊本の地検を歴任した。検察の業務に精通しているほか、テレビや新聞などでコメンテーターとしても活躍している。田中氏に「交通事故の裁判は判決が軽い」、「交通事故を起こした被告には厳罰が下されるべき」という意見がSNS上では圧倒的に多いことについて見解を伺った。 「1999年11月に東名高速飲酒運転事故が発生し、判決が軽いと批判が殺到しました。全国各地で厳罰化を求める署名活動が行われ、2001年に最高刑を15年とする危険運転致死傷罪が新設されたのです。以来、危険運転致死傷罪の上限が15年から20年に引き上げられたり、懲役7年以下で罰する自動車運転過失致傷罪を新設したりと、私も数えたのですが、これまで8回の法改正が行われています。世論の後押しで交通事故の厳罰化が行われると、あおり運転など予期しなかった事故が起こる。さらに厳罰化を行っても、また予期しない事故が起こる、ということが繰り返されてきました。法改正は手ぬるいと納得していない方もいるでしょうが、法曹界が世論にキャッチアップしようと努力を重ねてきたことも事実だと思います」