桐生は9秒台を出せるのか
桐生が9秒87の参考記録を出したレースには、ロンドン五輪代表で100メートルの決勝、9秒88で5位となったライアン・ベイリー(米国)、9秒98の持ちタイムがある2013年の世界選手権のリレーメンバーだったチャールズ・シルモン(米国)、9秒99がベストのマーク・ジェルクス(ナイジェリア)が揃っていた。不破氏は、その顔ぶれを抑えたことと、桐生の取り組みが評価できるという。 桐生は、課題のスタートを改善するため、スターティングブロックをこれまでの平行に近いものから前後10センチに広げた。ストライドも大きくなったが、それらを不破氏は可動域を広げる初動負荷トレーニングの成果だと見ている。それらを踏まえたうえで、かつて高校生で五輪代表となり、桐生と同じく10代で天才スプリンターと呼ばれた不破氏は、9秒台突破の条件をこう語る。 「私が10秒33を出したときに世界記録は、カルビン・スミスの9秒93でした。0.4秒差。桐生選手が10秒01を出した時点でウサイン・ボルトの記録が9秒58で、ここも0.43秒差。似ています。 この数字をつめていくためには、今後、10秒0台をコンスタントに出していく必要があります。私は、それができなかったし、桐生選手も、去年までは怪我などで安定はしませんでした。 大会のラウンドを重ねる中で、流しても10秒0台が出るような状況を作っていけば、あとは、レース時の風や他選手を含めた競技レベルなどの条件が揃えば9秒台は出ると思います。 スタート勘や反応のような神経系は、鍛えることは難しく天性のものです。そのセンスを持っている桐生選手には、大きな期待をしたいですが、9秒を出したいと欲が出ると、それがメンタルに影響します。勢いに乗っていくことも大事です。 桐生選手も怪我をして長いオフの間にトレーニングに取り組み高いモチベーションで臨んだ緒戦で参考記録ながら9秒87を出しました。その勢いのまま今シーズンは突っ走ってもらいたい。それが期待やプレッシャーをはねのけるものにつながりますよ」 確かに、9秒台の重圧の中、故障に苦しみながら心身共に進化した桐生の勢いには、「次こそ9秒台」を予感させるものがある。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムス通信社)