Jリーグ→欧州…長谷部誠が渡欧する前日談、カカの超人ぶりが飛躍への“野心”に変わった【コラム】
ACミランと対戦、カカのお膳立てからセードルフが決勝弾
浦和で残された試合はクラブW杯だけだ。ACL決勝を争ったセパハン(イラン)との初戦の準々決勝を3-1で勝ち抜き、準決勝で欧州王者ACミラン(イタリア)との夢の顔合わせが実現した。 トップ下で先発した長谷部は、旺盛にボールを引き出してはスルーパスを配給し、前半7分と追加タイムにいずれも威力のある中距離弾を放った。 しかし時間の経過とともに世界的名手が勢ぞろいするミランの巧さ、速さ、強さに驚嘆させられる。なかでも2006~07年の最優秀選手賞、“バロンドール”を受賞したブラジル代表MFカカのスピードには度肝を抜かれたという。 後半23分、アンブロジーニがフリーキック(FK)のボールを素早く左のカカへ預けると、超人的な速さで快足を誇る坪井慶介を抜き去った。セードルフがカカの最終パスを左足ダイレクトで合わせ、決勝点を蹴り込んだのだ。 カカはほかにも随所でサッカー界の巨頭ぶりを披露していた。 前半23分、センターサークルからドリブルを開始し、阿部勇樹とネネのマークを造作もなく突破。決勝点の1分前には左の大外で坪井とのスプリント勝負を制し、カバーに入った闘莉王もお置き去りにした。後半39分にも左から進出し、一瞬の速さで坪井をかわしてピルロのシュートに結び付けている。 長谷部は「今までに体感したことのないスピードだった。あのツボさん(坪井)が何度もあっさり振り切られ、いとも簡単に決定的な仕事をされた」と脱帽し、カカのお膳立てから喫した失点には「この1点の重さは5点にも10点にも値する」と言葉をつないだ。 坪井にしても「よーいどん、の駆けっこなら今まで負けない自信があったけど、カカの速さは尋常ではなかった」と舌を巻いたものだ。 翌日のクールダウン後、私は長谷部と突っ込んだ話をした。 この時もカカに対する所感が多く、「あのドリブルとスピードはすごかった。あんなに大きい(186センチ)のに速い。緩急の付け方も上手く、あれだけのスピードは日本人には感じたことがない」と一夜明けても、興奮と衝撃は収まっていなかった。 肝心の身の振り方については、まどろっこしい聞き方をしてみた。 「欧州に行ったら強豪チームばかり? そうですよね、今回ミランと直に戦って個人の能力に大きな差を感じた。巧いし強い。(欧州でやる時の)参考になる部分はあった。強いチームと対戦していけば(欧州リーグへの)慣れも出てくるはず。やれないことはないと思った」 ミラン戦の前半15分、軽やかにドリブルで運んでいたら、巧みに身体を入れてきたガットゥーゾに球を奪われた。「ああいう守備の強さと巧さも身に付けないといけない」とも言った。本職のボランチで大成するための手本にしたのかもしれない。 世界のすご腕と出会って力不足を痛感し、同時に「もっと上手くなりたい」という闘争心をたぎらせた。それがカカでありミラン戦だった。 2008年1月24日、ドイツ1部リーグのヴォルフスブルクへの完全移籍が発表された。