『虎に翼』伊藤沙莉が時を経て“はじまりの場所”へ “食べること”が意味する“生きること”
新聞紙に書かれた憲法14条に救われた寅子(伊藤沙莉)
食べること一つ取っても、そこには様々な意味がある。映像作品では、生きることの象徴、死との対比を担うことが多い。焼き鳥の串を見つめながら、優三への思いと理不尽な死への怒りをぶつける伊藤沙莉の演技は、相反する感情を涙と表情に昇華していた。 小道具としての焼き鳥の真価はその後に発揮された。包んでいた新聞紙を広げて、目に飛び込んできたのは新憲法の条文。ここで第1話につながる。寅子の視線は、憲法14条にくぎ付けになった。 一言一句を目で追い、嗚咽する寅子。全ての人の平等を宣言する条文は、それまでの人生を肯定するメッセージとして響いたのではないか。愛する人の死を受け入れる過程と作品の主題を提示する練られた演出だった。 第44話はドラマ全体の転換点だった。第1話の時点から振り返ると、第9週までは過去のエピソードで、ここからは現在進行形のストーリーが語られる。寅子にとってまだ見ぬ未来であり、新憲法とともに歩むことになる。
石河コウヘイ