広陵の中村は「高卒捕手はプロで活躍できない」ジンクスを打ち破れるのか
高卒捕手は成功しない、とのジンクスの理由を元千葉ロッテの名捕手、里崎智也はこう分析している。 「アマチュアの野球を見るときに難しいのは、どの目線で見るのかということ。中村選手にしても高校野球の世界では超一流。じゃあプロの世界で中村選手はどこの位置するかということ。例えば二塁への送球では最速1.7秒台、平均1.85ほどだったと聞きます。プロの世界では、1.90台だと合格です。ただそれは、常にどんなボールが来ても、どんなシチュエーションでも、その数値を平均してキープできるかどうかなんです。アマチュア時代に1.8秒台を出したという選手が、プロではなかなか頭角を現しません。 甲子園で150キロをばんばん出していた投手がプロへ来て球速が落ちたという話も良く聞きます。ではそれが、なぜなのか?という話です。 プロでは、143試合を戦わねばなりません。2週間全力を尽くせばいい甲子園の大会とは大きく違います。その体力があるのか、ないのか。これが大きな要因です。大学卒業の僕でさえ、プロに入って2年では、まだプロでやれるだけの体力は出来上がっていませんでした。ましてキャッチャーは、プロで覚えるべきスキルがヤマほどあります。単純に、捕る、止まる、投げるのスキルだけでなく、自分のチームのピッチャーだけで、数十人分の特徴をつかみ、対戦相手の長短所を最低5球団、何十人分も頭に叩きこまねばなりません。プロのキャッチャーの仕事は多く、高卒のキャッチャーがなかなか出てこない背景には、そういう理由があります。その意味で、キャッチャーとして中村選手には、まだ線の細さを感じます。 また金属バットから木製バットへの適応もあります。 それと高卒の捕手が成功するかどうかの最大問題は、現場が新人捕手の起用を我慢できるかどうかです。最低限のスキルができて、結果、打てていれば、使い続ける可能性もあります。中村選手はその可能性があるスラッガーだけに、“高卒の捕手は活躍できない”というジンクスを打ち破って欲しいのですが、現実問題として、その壁は想像以上に高いでしょう」 里崎の結論は、中村選手が「高卒キャッチャーは活躍が難しい」というプロ野球界の常識を打ち破る可能性を秘めているものの、その壁は、あまりに高いというもの。だがスターは、そういう常識を覆すところに生まれる。世代交代が急務、あるいは正捕手不在のチームならば、中村がジンクスを打ち破る可能性はある。今秋のドラフトが待ち遠しい。