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これほど多くの人たちが「好きなことを仕事にしないと、幸福になれない」と信じるようになったのはいつからか？ 【画像】仕事にいろいろ期待するなかれ？非現実的な期待はどうやって生まれた？ 英紙「ガーディアン」が、現代の「好きなことを仕事にする」という信念に疑問を投げかけている。 同紙によれば、「情熱を持って働くこと」が、自己実現やキャリアの成功の鍵だというメッセージが特に強調され始めたのは、21世紀初頭からだという。 スタートアップ企業の台頭や自己啓発ブーム、さらにSNSの普及により、一気に広がった。 たとえば、ソーシャルメディア上では、今日も「好きなことを仕事にして成功を手に入れる」という多数のメッセージが共有されている。 そこでは成功した起業家たちが、仕事に情熱を持つことが自己の成長と幸福の大きな要因だと語っているが、その手の物語の多くは「好きなことを仕事にして、そこに精一杯の情熱を注ぐという“正しいこと”をすれば、誰もが成功者と同じように充足感を得られるのだという信念を、私たち植え付けるもの」だと、同紙は警告する。 その信念は逆説的にみれば、仕事に対して強い情熱ややりがいを感じなければ、成功や充実感を得られないというものでもあり、それが仕事に対する「非現実的な期待」を生み出しているという。 この「非現実的な期待」により、精神的な健康やキャリアに悪影響を与える可能性があると、同紙は述べている。

仕事に対する非現実的な期待とは？

同紙によれば、この有害な「非現実的な期待」のひとつは、「情熱は数ヵ月以内に即時に湧くものだ」という期待だという。 「皮肉なことに、仕事に好きなことを期待すると、その仕事を辞める可能性が高くなる」 仕事にやりがいを感じるには本来時間がかかるもので、そのプロセスには単調で退屈な仕事も含まれる。また、ストレス負荷の高い避けられない課題に直面することもあるのが常だが、このような場面に遭遇すると「この仕事は私には向いていない」という危険信号として解釈し、早々に辞めてしまう。 また、仕事に情熱を注ぐというアイデアが一般化、かつ理想化されたことにより、雇う側も従業員に対価に見合った労働だけでなく、情熱も期待をするようになったと、英紙「エコノミスト」は指摘している。 ハーバード・ビジネス・スクールの教授らが米国の約2億件の求人広告を分析した研究によれば、「情熱」について言及されている求人の割合が、2007年では2％だったのが、2019年には16％に増加していたことが判明した。 実際に職場でも業績がそれほど高くなくても、より仕事に情熱を注いでいるようにみえる人が昇進や評価を受けやすい傾向があるという。 この傾向により「長時間働いたり、関連のない仕事まで引き受けるなど、コミットメントを証明しなければならないという、有害なプレッシャーが生じている」。 近年、仕事と私生活のバランスについての話が増えたにもかかわらず、キャリアからある程度の心理的な距離を保つことの重要性については、あまり触れられていないと、「ガーディアン」は指摘している。 仕事やキャリアから心理的な距離を置くためには、まず、仕事とは生活の一部であり、すべてではないこと、仕事のすべてを愛さなくても良いことを認識するのが重要だと、同紙は説いている。 「仕事の一部を楽しむことはできるが、仕事のすべてに情熱を感じることを期待すべきではない」 同時に、仕事への、自己実現から充足感、自己発見、個人の成長といった、さまざまなニーズを満たしてくれるという期待を手放すことも強調している。 そして、仕事と自分のアイデンティティを切り離すことで、仕事とより健康的で持続可能な関係が築けると示唆している。