ハ・ジョンウは野心に燃えるとき最も輝く 『チェイサー』から『ランサム』に至るまで
公開中の韓国映画『ランサム 非公式作戦』に出演しているハ・ジョンウ。この映画では、外交官として成功したいという気持ちを持っているものの、なかなかチャンスに恵まれなかった主人公のイ・ミンジュンを演じている。彼が、レバノン内戦下で消えた外交官を救うために身代金を持って現地に乗り込むことになり、武装組織に追われるという物語だ。 【写真】チュ・ジフンとハ・ジョンウの名バディ感が伝わるショット ミンジュンが偶然乗り込んだタクシーを運転しているのは、同じ韓国人のパンス(チュ・ジフン)。プライベートでも仲良しというふたりのかけあいが、緊迫感のある中でもとにかく楽しい作品となっている。しかも、当初は後輩であるはずのチュ・ジフン演じるパンスが年齢を偽っており、ハ・ジョンウが年下で「ヒョン」(兄貴)と呼んで下手に出ているという‟あべこべ”の関係性にも、ファンはクスっと笑ってしまうだろう。 もちろん、史実を元にしたサスペンスでもあり、また日本でもリメイクされた『最後まで行く』のキム・ソンフン監督の作品だけに、韓国映画ファンなら納得の一作になっている。 このハ・ジョンウが俳優活動をスタートさせたのは、日本が韓流ブームに沸いていた2000年代初めの頃。初めて出演した映画『マドレーヌ』(2003年)はチョ・インソン(映画『密輸 1970』で話題の)が主演のラブストーリーであった。またドラマ『プラハの恋人』(2005年)などが日本に紹介されたため、当初は韓流スターのひとりのようなイメージもあった。 現在のような無骨なイメージを定着させたのは、やはり『チェイサー』(2008年)が大きいだろう。実際に起こった連続殺人事件を基にしたナ・ホンジン監督の長編デビュー作で、キム・ユンソク演じる刑事の前に現われる残酷で何を考えているのかまったくわからない殺人鬼を演じて、これまでのイメージを一変させた。 日本での知名度が上がったのは、『ノーボーイズ,ノークライ』(2009年)だろう。妻夫木聡が主演で、脚本を渡辺あやが手掛けているというだけで、今でも観てみたくなる人は多いのではないだろうか。ショッピングモールで行われているのど自慢で、妻夫木とハ・ジョンウが「アジアの純真」を歌うシーンは今でも忘れられない。ふたりは、映画祭などで再会すると仲睦まじい写真をアップしたりもしていて、再共演を願うファンも多い。 ハ・ジョンウが次なるステージに至ったのは、2012年の『悪いやつら』ではないだろうか。1982年から始まる釜山を舞台にした映画で、盧泰愚大統領の「犯罪との闘争」という実際の政策と裏社会との関係性も描かれる。現在まで続く韓国ノワールの流れは、この作品から始まっていると言っても過言ではない。この作品でハ・ジョンウは暴力団のボスを演じ、また遠い親戚の元・税関職員と裏社会での勢力を拡大していくのだが、チェ・ミンシクの‟小物っぷり”とそれに辟易してくる若きボスとの関係性と心理描写がカギとなっている作品であった。