ハ・ジョンウは野心に燃えるとき最も輝く 『チェイサー』から『ランサム』に至るまで
ハ・ジョンウの魅力が爆発した『テロ、ライブ』
ハ・ジョンウの魅力が爆発したのは、なんと言っても『テロ、ライブ』(2013年)だろう。テレビ局の看板アナウンサーであったユン・ヨンファ(ハ・ジョンウ)は、ラジオ局に左遷され、半ば人生を諦めたように生きていたが、ラジオの放送中に漢江にかかる麻浦大橋を爆破するという脅迫電話を受ける。彼は、そのスクープをきっかけに、テレビ局のアナウンサーに返り咲こうと画策する……。 映画の冒頭では、くたびれて半ば人生をあきらめかけていたようなヨンファが、スクープをきっかけに生き生きとかつての自分を取り戻していく。事件を利用して再起をはかろうとする行為は決していいことではないのだが(もちろん事件を未然に防ぎたいという善意はあるにしても)、それまで着ていたいなたいセーターを脱いでネクタイとシャツ姿になり、髪にワックスをつけて、スイッチを入れ替えて顔つきの変わるハ・ジョンウの姿を見て、それまではハ・ジョンウのことを存在感のある韓国の中堅俳優のひとりと見ていた筆者は彼のファンになってしまった。 現在の立場に満足できない主人公が、仕事のチャンスをきっかけに、一発逆転を図りたいという野心に燃える構図に関して言えば、『テロ、ライブ』と『ランサム』は似ているし、ハ・ジョンウを最も輝かせる設定であるとも思えるくらいだ。 その『ランサム』でよき相棒を演じているチュ・ジフンとは、『神と共に 第一章:罪と罰』(2017年)、『神と共に 第二章:因と縁』(2018年)で出会い、『ランサム』の撮影後にも、『歩いてチケッティング』という旅行バラエティ番組で共演し、さらに仲を深めたのだという。 また、チョン・ドファン大統領による軍事政権下にあった韓国の警察署内で大学生が亡くなったことから始まる実際の民主化闘争を元にした『1987、ある闘いの真実』での演技も忘れられない。 現在、日本では1947年のボストンマラソンの実話を基に描かれる『ボストン1947』も公開中である。そのほか、韓国では今年前半に、実際に1971年に起こったハイジャック事件をモチーフにした主演映画『Hijacking(英題)』も公開されたばかり。日本での公開(まだそのようなニュースはないが)が待ち遠しい。
西森路代