ディズニーは「中高年向け」に舵を切る? 日本での勝ち筋は
コロナ禍が引き起こした「断絶」
あまり触れられないが、コロナ禍による「娯楽文化・習慣の断絶」も影響していると考えられる。ディズニーリゾートをはじめ、ある程度出費が伴う娯楽文化・習慣の多くは10代後半~20代前半、つまり高校生から大学生の期間にそれぞれが所属する組織の縦や横のつながりで継承されてきた。 代表的なのが「飲み会」である。コロナ禍により、複数人がリアルの場で集まり、同じ時間を共有する娯楽が停止した。この期間に大学生だった世代は、在学中に飲み会をしなかったという人も少なくない。 テーマパークも同様だ。「複数人がリアルの場で集まり時間を共有する」娯楽文化の継承が部分的に絶たれ、ディズニーリゾートの若者離れにつながった可能性もある。もっとも、これが明確に影響を及ぼしたといえるのは今後数年のデータを追う必要がある。
“かつての子供”をグリップし続ける強み
ここまで「若者離れ」の理由を考察してきたが、これらの事象は必ずしもディズニーそしてディズニーリゾートの魅力が失われていることを意味するものではない。むしろより幅広い世代にアピールできるようになったといえる。 まだ子ども向けキャラクターやコンテンツが少なかった時代に幼少期を過ごした現在の中高年層は、ディズニーに対して変わらず愛着を持っている人が少なくない。それは代表的なディズニーキャラクターだけでなく「ディズニー」というブランドそのものへの愛着にもつながっている。 米ディズニーは「MARVEL」シリーズや、エミー賞獲得で話題となった『SHOGUN』など、内容・テーマ両面で中高年層以上を対象としたコンテンツを積極的に展開している。MARVELを傘下に収めた時期を鑑みると、米国市場で先行して大人層の維持・獲得に取り組み始めたとみられる。
大人世代向けコンテンツとして期待される『SHOGUN』
日本のディズニーリゾートではどうか。今後は米国市場と同様に大人層を重点対象とするのであれば、今後MARVELに関するアトラクションが増加する可能性もある。 折しも、2025年1月から期間限定でマーベル・スタジオのキャラクターたちが登場する「イッツ・ア・スモールワールドwithグルート」が発表されている。他国のディズニー関連テーマパークでは既に展開しているプログラムでもあり、日本でもMARVEL関連アトラクションに注力し、大人世代への訴求力を高めていく可能性はある。 直近話題となった、日本の戦国時代を描いた『SHOGUN』に関しても、米ディズニーの中でも一大コンテンツとして成長すれば、将来的にテーマパークのアトラクションに追加される可能性もゼロではない。米国をはじめとした、世界市場での人気が続くのを祈るばかりである。 上記のように、ディズニーリゾートが発表した数字のみを見れば、若年層の来場者比率が低下していることは事実である。しかし、それがディズニーコンテンツやディズニーリゾートの魅力が失われたということにはならない。むしろ、ディズニーリゾートが時代のトレンドを捉え、着実に収益をあげられる形態へと変化を試みたことが背景にあり、その結果、より上の世代までを魅了する「魔法の国」として、その地位を確立しようとしているともいえる。 “かつての子ども”である中高年層をグリップしつつ、同時に新しい世代の心をもつかむ。このバランスを取り続けられれば、ディズニーリゾートは今後も日本を代表するテーマパークとして君臨し続けるだろう。それには、子ども世代の新たなチャネルとして浸透しているデジタル領域と、テーマパーク領域との強固な連携が求められる。
著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく)
株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。
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