八木康夫プロデューサーが語る 40年前の小さな約束を形にしたNetflixシリーズ「阿修羅のごとく」
脚本と撮影へのこだわりから見えてくる敬意と品格
池ノ辺 今回驚いたのは、脚本としてそのまま向田さんのお名前があったことです。向田さんの脚本をほぼそのまま使われたということですよね。 八木 そうです。もちろん現代に置き換えて別の脚本家で、ということもできなくはないでしょうけれど、そもそもが向田さんの脚本ありきのドラマですから、時代設定も含めてそのままでやろうと。ただ、先ほども言ったように、ひと晩で1話書き上げる勢いで書かれているため、辻褄が合わなかったり偶然が多いというところがあったりして。その辺りを監督が、手を入れてブラッシュアップしてくださいました。 池ノ辺 本作を拝見したんですが、全然古さを感じさせないドラマでした。とても面白かったです。おかしくてちょっと泣けて。当時、NHK版のドラマも、見ていたのですが、まだ幼かったのでわからないところも多かったんです。それが、自分も歳をとっていろいろ経験した今になってみると、向田さんが描いていた女の人生の毒みたいなものも見えてきて、もっと面白く拝見しました。それと映像がとても美しかったですね。 八木 撮影は瀧本幹也さんにお願いしています。瀧本さんはスチールカメラの世界でも巨匠のおひとりなんですが、映像も『そして父になる』『海街diary』など是枝監督作品を手がけられています。しかも今回はシリーズ作品ではありますが、フィルムで撮っているんですよ。 池ノ辺 そう、それも驚きました。 八木 今どきフィルムだと金がかかるなと、僕なんか思ってしまうんですが(笑)、でもその辺はこだわりですよね。見る方にもフィルムの良さが伝わればいいなと思っています。 池ノ辺 フィルムのなんともいえないザラザラ感とか、その時の雰囲気が鮮やかに表現されていてよかったです。音楽も、あの昔のテーマ曲へのオマージュなのかなと感じるくらい、あの曲が蘇ってきました。伺っていると、ずいぶんスムーズに進行したようですが、大変なこともありましたよね。 八木 撮影自体は大きな問題はなかったのですが、それをどこで作品を流すかということについては、最初からNetflixさんでと決まっていたわけではなくて、いろんな可能性を探っていました。 池ノ辺 本作は世界に向けて配信されますが、反応が楽しみですね。八木さんは、ずっとテレビドラマの世界を歩んでこられたわけですが、八木さんにとってドラマとはなんでしょうか。 八木 基本的にはエンターテインメントだと思います。ですから、それを見ている時間、楽しんでいただければ、それが一番のドラマの使命だと思っています。その上で、登場人物に感情移入して、視聴者が自分のこととして振り返ったりする、そんなきっかけになってくれたら、嬉しいですね。それから、僕はホームドラマを多く作ってきたので、できればご家族一緒にご覧頂き、いろいろ会話が弾んでくれたら嬉しいですね。最近手がけたNHKさんの「団地のふたり」(2024)もホームドラマです。一時期ホームドラマが廃れていた感じがあったんですが、最近また復活しているのはいいことだと思っています。 池ノ辺「向田邦子の恋文」も期待しているのですが(笑)。 八木 生誕100年の企画とかですかね。
インタビュー / 池ノ辺直子 文・構成 / 佐々木尚絵