八木康夫プロデューサーが語る 40年前の小さな約束を形にしたNetflixシリーズ「阿修羅のごとく」
自然と浮かんできた四姉妹のキャスティング
池ノ辺 私も向田さんのファンで、今でもことあるごとに小説やエッセイなど読み返してみたりするんです。ですから、今回、「阿修羅のごとく」がリメイクされると聞いた時、あのドラマがもう一度見られるのかと、本当に嬉しかった。 八木 でも、ドラマのリメイクはハードルが高いですよ。NHKのドラマ(1979~80)は名作です。向田さんの代表作をリメイクできればいい、というような単純な話ではなく、やはりキャスティングにしろ何にしろ、あの作品を超えるというのはおこがましいですが、ある程度の出来栄えにしなければ、失礼だと思ったんです。 池ノ辺 結果的には素晴らしいものができましたね。四姉妹のキャスティングもぴったりでしたね。 八木 皆さん、「キャスティングは大変でしたでしょう」とおっしゃるんですが、誤解を恐れず言うなら、そうでもなかったんです。 池ノ辺 すぐ決まったということですか。 八木 向田さんの脚本は、節目節目で読み返していたんですが、10年前に読んだ時には誰がいいというのは具体的には思い浮かびませんでした。それが、5年ほど前に再び脚本を読んだ時には、今回の4人の姿が自然に目に思い浮かんだんです。とはいえ、あくまでイメージキャストでしたから考えるのは自由、でも実現するのは難しいだろうなというのはありました。それでもとにかく、皆さんにお声をかけたんです。長女からということではなく、ほぼ同時に皆さんにお声をかけました。 池ノ辺 それがそのまま通ったんですね。 八木 僕らの世界では、イメージキャストの5割が実現すれば、キャスティングに関してはほぼ成功と言っていい。それが4人とも快諾してくれました。この話を持っていった時には、皆さん、「他の3人はどなたが候補ですか」と聞かれました。「この3人です」と言うと、「これは実現すれば素晴らしいですよね」とおっしゃっていただきました。説得しなければならないとか、一切なく。本当にありがたいことに皆さん二つ返事だったんです。 池ノ辺 それだけ、皆さんにとってもやってみたいという作品だったんでしょうね。 八木 そうですね。それは確かに向田さんの「阿修羅のごとく」を演じてみたいという、女優さんとしての本性に刺さったのではと思います。 池ノ辺 それだけじゃなく、八木さんの熱意も伝わったんだと思いますよ。ところで、是枝監督にはどのように声をかけられたんですか。 八木 もちろん、TBSの後輩にも優秀なディレクターはいましたが、その時点では、まだどこで放送、あるいは配信されるのかも全く決まっていませんでした。そんな時、是枝監督がご自身のワークショップで向田さんの「阿修羅のごとく」の脚本を使っていると聞いたんです。それまでは是枝監督と接点がなかったので、自分で是枝監督が所属されている分福さんの連絡先を調べて、「こういう企画があるんですが、相談に乗ってもらえませんか」と連絡したんです。それで監督にお会いして、「女優さんはこの4人に承諾いただいています。監督はご興味ありますか」と聞いたら、「これは他の監督には撮らせたくない」と言ってくださって(笑)。嬉しかったですね。そんなにすぐに快諾いただけるとは思わなかったですから。 池ノ辺 撮影が始まってからはどうでした? 八木 普通はプロデューサーはあまり撮影現場にいないのですが、僕は嬉しくてほぼほぼ居ました(笑)。