W杯でモドリッチが活躍 旧「ユーゴ連邦」紛争の歴史と現在
スポーツや科学分野で多数の人材輩出
西バルカンでは内戦により多数の犠牲者が出ました。しかし、スポーツの世界では世界的な人物を多数輩出しており、日本でもよく知られている選手は少なくありません。 旧ユーゴはサッカーでは、「東欧のブラジル」とも呼ばれ、高い技術力を武器にする選手が多く生まれました。モドリッチ(クロアチア)のほか、ストイコビッチ(セルビア)、ハリルホジッチ(ボスニア)、オシム(ボスニア)も有名です。モドリッチは難民でした。テニスでは、ジョコビッチ(セルビア)がいます。 また、科学の世界では、ニコラ・テスラ(クロアチア生まれ)は世界で初めて交流電流を実用化しました。エジソンと同時代であり、エジソンはマルチ発明王として有名ですが、テスラは知られていません。テスラ自動車会社の名称は同人からきていることを知っている人は少ないでしょう。しかし、直流を実用化したエジソンより、後の工業化に貢献した度合いではテスラのほうが上でした。 内戦以前は、セルビア人もクロアチア人もその他の民族も仲良く暮らしていました。チトーはクロアチア生まれですが、西バルカンのすべての民族から尊敬されています。テスラもクロアチアだけでなくセルビアにとっても誇りであり、ベオグラードには同人の博物館があります。 旧ユーゴを構成した西バルカンの諸民族は現在国家としてはバラバラですが、前述のセルビア語とクロアチア語のように言語などの共通点もあります。6つの共和国で統一していた歴史もあります。また、どの国もEUへの加盟を希望しています。スロベニアとクロアチアはすでにEUの一員になっています。今後、共通点をさらに拡大し、友好関係を回復していくのではないかと思われます。
----------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹