知らなかった…「日本兵1万人が行方不明」の硫黄島の土を掘るための「意外な道具」
土を掘るのは、まさかの道具
戦時中の物を使うのは、地図だけではなかった。土を掘る道具もそうだった。 使用したのは、現在、ホームセンターなどで販売されている一般的なスコップではない。日本軍が使っていた当時のスコップだ。レプリカではなく、本物だった。近年、島内の壕から、油紙で包まれた未使用の状態で多数見つかり、そのうちの一部を使用していた。木製の柄の長さが50センチ程度と短く、比較的軽量のため、狭い壕の中でも振るいやすいのだ。つまり収集団員は図らずも、戦時中の兵士と同じ道具で、壕を掘るという作業を追体験していた。 スコップの先の金属部分には、ちょうど人間の目と目の間隔で直径1センチほどの穴が二つ開いていた。おそらく兵士たちは、物陰から敵を窺う際に、これを顔に当てることで顔面への被弾を防いだのではないか、と僕たちは推測したが、それが正しいかどうかは分からなかった。 スコップの多くは錆が少なかった。団員の中には、兵庫県で鉄工所を営む男性もいた。男性は「かなり質が良い鉄ですね。だから70年以上経ってもこんなに良い状態のままなのでしょう」と驚いていた。 捜索に使う地図は米軍のグリッドで、土を掘るのに使うのは日本軍のスコップ。この21世紀において、戦時中の物品を使って遺骨収集が進められることは、僕が現地で驚いたことの一つだった。 つづく「「頭がそっくりない遺体が多い島なんだよ」…硫黄島に初上陸して目撃した「首なし兵士」の衝撃」では、硫黄島上陸翌日に始まった遺骨収集を衝撃レポートする。
酒井 聡平(北海道新聞記者)