「軍常駐」の布石か ガザ北部の包囲作戦1カ月 イスラエル・ネタニヤフ政権
イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザで北部を包囲して激しい攻撃を始めて1カ月になる。食料の搬入が遮断され、爆撃と飢えの恐怖にさらされて大量の住民が中部や南部への避難を余儀なくされた。軍の「ガザ常駐」を視野に住民を強制的に移住させているとの見方もあり、極右勢力は2005年に撤去した入植地の再開を訴え、勢いづいている。 ネタニヤフ首相は米大統領選でトランプ前大統領が勝利すれば、現在より自由に戦闘が指揮できると踏んでいるとされ、北部の情勢は次期米大統領が誰になるかにも左右されそうだ。 作戦は10月6日ごろに始まった。イスラエル軍はイスラム原理主義組織ハマスの組織立て直しを阻止するとして北部住民に避難命令を連発、難民キャンプがあるジャバリヤやベイトラヒヤなどを激しく攻撃し、北部では同月末までに千人超が死亡したとされる。 イスラエルは10月初め、新たな関税を課して食料のガザへの搬入が激減、住民は危機的な状況に陥った。米CNNテレビ(電子版)は16日、北部住民約40万人のうちジャバリヤ地区から5万人が家を捨てて逃げ、「野良犬が人間の遺体を食べて身元確認が困難になっている」という支援団体職員の話を伝えた。 食料流入の遮断などの特徴が、イスラエルの国家安全保障会議の元議長ら退役軍人が提案した「将軍たちの計画」と呼ばれる作戦に似ており、政権がこれを採用して実行に移したとの観測もある。 武力紛争の際に一般人を飢餓状態に置くことは国際法違反とされる。バイデン米政権は10月中旬、30日以内に事態を改善するよう要求した。イスラエルの人権団体「ベツェレム」も同月下旬、「住民の強制移住が念頭にあるのは明らかだ」と政権を批判した。 一方、対パレスチナ強硬派で戦闘継続を主張するユダヤ人極右勢力は、飢餓の拡大も辞さない作戦を歓迎しているようだ。連立与党のベングビール国家治安相は10月下旬、「私たちが望めばガザの入植地を再建できる」と訴え、パレスチナ人に自主的にガザを去ってもらうのが「最善の選択肢」だと述べた。 約1年前のハマスによる奇襲を受け、右傾化するイスラエルのユダヤ人の多くは「ハマスとは共存できない」と考えているとみられる。多大な犠牲を伴う作戦がまかり通る一因といえそうだ。(カイロ 佐藤貴生)