児玉碧衣が異様な超スロースタートにも動じず地元でGⅠ制覇 3月の惨敗から「死ぬ気」の猛練習で巻き返す
【体調不良で1カ月以上欠場】 女王の凱旋。 「第2回オールガールズクラシック」を制した児玉碧衣(福岡/108期)のレースぶりは、まさにそんな言葉が相応しい威厳を放っていた。 【画像】「きれい」「かわいい」の声多数。ファン投票7年連続1位の児玉碧衣 4月26日から28日にかけて久留米競輪場で開催された「令和6年能登半島地震復興支援競輪・第2回オールガールズクラシック」は、2023年からスタートしたガールズケイリンにおけるGⅠ開催のひとつ。名前のとおり3日間で行なわれる36レースはすべてがガールズの競走であり、西鉄久留米駅前の商店街には開催を告知するペナントが並ぶなど歓迎ムードが漂っていた。 そんな久留米に詰めかけたファンからの期待を一身に背負っていたのが、福岡県大野城市出身で久留米競輪場をホームバンクとする児玉だ。これまでにいくつもの記録を打ち立ててきたガールズケイリン界のエースが、GⅠの大舞台での地元凱旋。レース前の練習走行から大声援が飛び、「アオイ」コールも巻き起こるなどその熱狂ぶりはすさまじく、優勝の大本命に推された。 しかし、児玉の2024年シーズンは決して順調とは言い難いものだった。年始こそ好スタートをきったものの、2月には体調不良などで1カ月以上にわたる長期欠場を経験。復帰直後の3月21日にはビッグレース「ガールズケイリンコレクション2024取手ステージ」に臨むも、結果は7着。明らかな仕上がり不足に「ここまで差があるのか」と、焦る気持ちを隠しきれないでいた。 それでも、オールガールズクラシックの開催地にホームバンクが選ばれた今回を「最初で最後の地元GⅠかもしれない」と捉えた児玉は、自ら「死ぬ気で」と振り返るほどの猛練習を積み、直前の開催で完全優勝(3日間連続1着)を果たすまでにコンディションを回復。故郷での晴れ舞台に間に合わせてみせた。
【スタート直後の異様な光景】 調子を取り戻した児玉は、初日の成績上位者らによるシードレース「ティアラカップ」で勝利すると、2日目の準決勝でも盤石のレースで1着。決勝では当然のように児玉が本命視されたが、ひと筋縄ではいかないのが実力者のみが勝ち上がるGⅠ。その他6選手もそれぞれがビッグタイトルをつかみ取るチャンスを虎視眈々とうかがい、あらゆる展開を想定しながら本番を迎えた。 そして、その心理戦は号砲直後に異様な光景となって展開に現れる。レースが始まっても、誰もスピードを上げようとせず、最大限のスロー走行を展開したのだ。 すべての選手が「このメンバーで先頭に立っては勝機がない」と判断して巻き起こったけん制合戦は、誘導員がすでに半周回しようかという段階まで停滞し合うかつてない状況に。最終的に小林莉子(東京/102期)が先頭に立つことで一時的に心理戦は解消されたものの、ラスト1周半の打鐘で誘導員が外れると、先行勢が仕切りに後ろを振り返りながらペースを落とし、再びレースはスローダウンした。 この「先に仕掛けたら負け」だと各々が言外に主張する展開を、児玉は常に後方から見守り続けた。そしてラスト1周、意を決した小林のスパートに呼応して急激に上がったペースにも児玉はピッタリ追走すると、ついにバックストレッチで勝負に出た。5番手だった児玉の車体は第4コーナーに差し掛かる時点で気づけば先頭へと踊り出ており、あとは鋭くゴールラインへ駆け込むだけだった。 「冷静に周りを見て、最後が勝負だと考えていました。連日体が動いていたので、自信を持って乗れました」 レース後、我慢比べになった展開をそう回顧した児玉は、満面の笑顔で大声援への感謝を述べた。 「競輪人生で一番くらい声援がすごかった。(地元で勝ちたいという)欲が出てプレッシャーも感じていたんですけど『どこの応援団?』ってくらいの声援で緊張がほぐれました」 優勝した児玉は賞金とともに12月に静岡で開催される最高峰のレース「ガールズグランプリ2024」への出場権も獲得。欠場の影響で後れをとっていた賞金ランキングによる出場権争いからの抜け出しに成功し、昨年6月の「パールカップ」を制して以来、2年連続で"グランプリ一番乗り"を決めた。