杉咲花×若葉竜也『アンメット』8話「どちらも諦めない」という決意
「どちらも助ける」ミヤビが綾野の気持ちを動かす
そんな綾野は、父の代わりに綾野病院で実際に患者と触れ合い、過疎地医療の大切さを思い知る。また、麻衣が綾野家を案じ、こまめに父の好物や、綾野の様子を綴った手紙を送っていたことを知り、またその内容から麻衣の自分に対する思いに気づく。「積み重ね」がありすぎて自分を見失っていた綾野を見つめ続け、いちばん理解しているのは、麻衣だった。 思えば、綾野と麻衣は似たもの同士だ。麻衣は綾野と綾野病院を守るため、「誰とでも結婚する覚悟はできてる」と、より良い条件の別の縁談を受け入れる覚悟を決める。そこに自分の意志はない。自分を犠牲にするやさしさをもった2人。だからこそ、お互いがいちばん理解し合える相手なのだろう。 寡黙であった勲は事故の後遺症で感情がむき出しになる「社会的行動障害」を患い、リハビリに努めていた。 「俺が望んでいるのは、お前が俺のために何かすることじゃない、お前がお前のために生きてくれることなんだよ!」 綾野病院は売らないと宣言し、激しい口調で息子に向かって投げつけた言葉は、もしかしたら事故前の勲であったら口にしなかったことかもしれない。 しかしそう発した直後、勲の脳に異変が起きる。おりしも急患が運ばれてきたタイミング。一刻を争う難しい脳外科手術が2つ同時に降ってきたミヤビたち。しかしミヤビを筆頭に、三瓶(若葉竜也)、星前(千葉雄大)らはうろたえる様子も見せず、当然のように「2人同時にやります」「諦めません。2人とも助けましょう」と同時手術をやってのける。 その姿を見て、「どちらも諦めない」覚悟を決めた綾野は、改めて麻衣に思いを伝え、綾野病院もカテーテルも麻衣のことも諦めないと宣言し、「一緒に自分の人生を生きよう」と2人で生きることを選ぶ。ミヤビたちの姿勢が、綾野を動かしたのだ。
綾野にムキになる三瓶の感情の揺れ
綾野と麻衣がお互いの気持ちを通じ合わせる感動的なシーンの直後に、早口で、平板なトーンで三瓶の口から発せられる「えっ何が大丈夫なんですか。何も解決してないですよね。綾野病院はどうするんですか」には思わず笑ってしまった。それに対し「うーん、たしかに大丈夫ではないんですよね」と答える麻衣も、現実が見えている。麻衣のこの冷静さをもってすれば、どんな障害もなんとか乗り越えていけそうな気さえしてくる。 8話冒頭、ミヤビが綾野と美術館に行ったこと、かつてそこで告白されたことを思い出したシーンで「断られたんですよね? 3回。3回断られたんですよね?」とやはり早口で言い募る三瓶を見て、ミヤビのこととなるとムキになるなあと微笑ましい気持ちでいた。けれど、終盤で綾野を問い詰める三瓶を見てみると、もちろんミヤビへの思いはありつつ、一方で綾野に対しても信頼と友情を感じているからこそのこの言動なのではないか? とも思えてきた。どちらにしても、三瓶という人はつくづく魅力的だ。 少しずつ記憶を取り戻しているように見えるミヤビ。彼女の記憶障害の原因が大迫(井浦新)から語られるのだろうか。 ●番組情報 『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ) 脚本:篠﨑絵里子 原作:子鹿ゆずる(作)大槻閑人(作画)『アンメットーある脳外科医の日記ー』(講談社『モーニング』連載) 演出:Yuki Saito、本橋圭太 出演:杉咲花、若葉竜也、岡山天音、生田絵梨花 他 プロデューサー:米田孝、本郷達也 主題歌:あいみょん『会いに行くのに』 FOD、Netflixにて全話配信中(有料) ●釣木文恵 つるき・ふみえ/ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。
GINZA