《ブラジル》寄稿 日本人のエロスにある粋なコンセプト 前代未聞のミス・ヴァギナ・コンクール 坂尾英矩
女性器の外観で金儲けするビジネスなんて
選挙関係の報道が新聞紙面を多く占める最中、去る9月22日付フォーリャ・デ・サンパウロ紙の信じられないようなニュース《リオデジャネイロの候補者が、国内で最も美しい女性器コンクールで優勝》が目に止まった。 驚いたのはその見出しで「ミス・ヴァギナ・コンクール」――まさにそのものずばり、ブラジルで最も美しい女性の秘部の持ち物の主が選出されたのである。 内輪だけの遊びなら話は分かるが大衆エンタメとして全国から応募者が5千人あり、審査員の他に一般人の投票を募って11万票も集まったのである。問題は審査方法と選択基準で、申し込みは局部の写真のみ。選択基準の最重要点は局部の左右両サイドの調和と書いてある。 このコンテストは2022年に誕生し、昨年は中止されたが、今年復活した。コンテストのルールは三つ。「形成外科医から陰部の手術を受けたことがないこと」「審査に影響を与えないよう出場者の顔を省略すること」「ファイナリストは異なる州の代表であること」。 一般投票のアクセスは15レアル(約400円)だから11万票なら165万レアルの収入となり、優勝者には賞金1万レアルだから旨味のあるビジネスである。いずれにせよ女性器の外観を金もうけの目玉商品とするなんて、欧米人の物質主義的な価値観から出たもので、世界中に広まったポルノビデオも同じ発想である。
日本人の美とは「深い精神的な美しさを目指す」
しかし、日本人には昔から老若男女を問わず仏教的美、つまり「美とは表面的なものではなく深い精神的な美しさを目指す」という情感が自然と身についているので欧米人とはレベルが違うから、このようなイベントはセンスに合わない。 例えば「心中」を取り上げてみよう。 終戦直後爆撃で廃墟となった東横線高島町駅ガード下で、米国婦人と日本人画家の服毒心中事件があった。米軍MP部隊のジープと横浜の警察署員がかけつけたが、占領下だったので抱き合っていた死体は日米両サイドに離ればなれとなって収容された。 その現場を見た米兵と立ち会った日本人通訳のつぶやきが誠に対照的だったのである。米兵は「テリブル(ひどい)」と言って十字を切った。米婦人は駐留軍人の妻だったからキリスト教では不倫も自殺も罪人である。 一方、日本人は「いい顔して死んでる、幸せそうだなぁ」と言ったのである。米国人にとってはテリブルな悲劇だったが、通訳官の反応には悲壮感がなかった。それは「愛の究極は死なり」と信じた二人は身体をしばり合い向こう岸へ渡って行ったのに過ぎない、という仏教的安らかさを感じたからではないだろうか。
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