《ブラジル》寄稿 日本人のエロスにある粋なコンセプト 前代未聞のミス・ヴァギナ・コンクール 坂尾英矩
死すら輪廻の一時的現象であると悟る仏教的な美
1983年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した『楢山節考』(今村昌平監督)は世界中で上映されたが、ヨーロッパ人の中には日本はつい最近までこのような社会だったと思った人が多かったそうだ。うば捨て山はプラグマチズムの欧州人にとって、単なる不要物を捨てる行為としか映らないから非人道的悲劇だと思うのは無理もない。 しかし「そろそろ行かねばなるまい」と決めたおりん婆さんが、息子におんぶされて山へ上る嬉々とした姿は、死は輪廻の一時的現象であると悟る仏教的な美が感じられる。おりん婆さんの心は誰かに教えてもらったのではなく、体で学んだ情感なのだ。だから悲壮感はない。正に人生劇の幕引きとして美しい演技ではないだろうか。
日本人老移民のセックス美学
ここで半世紀近くさかのぼってサンパウロ州の地方都市と総領事館共催で日本週間を開催した時の話を聞いていただきたい。 当時、外務省きってのブラジル通だった鈴木康之領事と私はイベント準備のために出張した。その晩、当地の日本人会役員たちと会食したが、ほとんどの人は高齢者だったので酒の席が自然と病気や薬の話になり、中でも一番若く見える最年長者に皆が若さの秘訣を質問したのである。 すると彼は、ニヤッとして「食事の席でこんなこと言っちゃなんだが実はね、この数年毎日自分のオシッコを飲んどるのですよ」と言って続けた。「健康に良いかどうか分らんがアッチの方は若返りましたよ。この前、うちのかあちゃんの寝姿にムクムクっとして揺り起こしたら『あんた、あたしゃあ疲れてんだよ、そんなにやりたかったらお女郎さん買ってきな』なんて怒られましたよ」と笑った。 そこで誰かが「それであんたゾーナ(赤線紅灯街)へ行ったのかい?」とからかったら、その回答が絶世の名言だった。 「そんなとこ行きゃせんですよ。うちのかあちゃんはね、あんな面しとるが、イク時にはえらく可愛いんじゃ」 これが日本人老農夫のセックスシーンのセリフである。なんと美しい表現ではないか――。 日本は美学の国である。(筆者は元在サンパウロ総領事館広報文化担当、93歳、横浜市出身、サンパウロ市在住、移住68年)
【関連記事】
- 《特別寄稿》誰も書かなかった日伯音楽交流史 坂尾英矩=(25)=「ブラジルのベニー・グッドマン」=当地ジャズ史に名を遺す醍醐麻沙夫 2024年9月28日
- 《特別寄稿》誰も書かなかった日伯音楽交流史 坂尾英矩=(24)=祖国では誰も知らない歌姫ソーニャ=日本ではボサノーヴァのパイオニア 2023年9月1日
- 《特別寄稿》誰も書かなかった日伯音楽交流史 坂尾英矩=(23)=ボサノーヴァのリバイバルに大きな貢献をした日本 2023年7月15日
- 《特別寄稿》誰も書かなかった日伯音楽交流史 坂尾英矩=(22)=日本でブラジル音楽歌手を育てた功労者 ヴィルマ・デ・オリヴェイラ 2023年5月27日
- 《特別寄稿》誰も書かなかった日伯音楽交流史 坂尾英矩=(21)=音楽界で達人と称賛された日本人=コントラバス奏者の塩田穣(みのる) 2023年4月29日