「戦争に巻き込まれたくない」「軍事的協力は最低限に」という「日本だけの都合と願望」がもはや通用しない理由
ところが実際には、事前協議をバイパスできる日米両政府間の「密約」が存在していたことが明らかになっている。日本が事前協議でアメリカ側の要請を拒否するなどすれば、アメリカによる韓国防衛が成立しなくなるおそれがあるからである。 日米同盟に批判的な論者は、こうした実態を「欺瞞」だとして厳しく非難する。たしかにこれは一面において正しい。 ただ、こうした批判は、ある意味で問題の矮小化になってしまっているともいえる。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなか、日本的視点にこだわり、このような視点に現実を従わせることがますますできにくくなってきているからである。先の例で言えば、日本が事前協議でノーの立場をとってアメリカによる韓国防衛が成立しなければ、結局日本自身の安全も脅かされるだろう。 そこで、日米同盟の抑止力を高め、平和を維持するために、「第三者的視点」を取り入れる必要がある。 日本的視点が、日本側の願望や都合に依拠するものであるのに対し、第三者的視点とは、日本以外の国ぐにの見方も踏まえつつ、現状を歴史的背景あるいは地域全体のなかに置いて俯瞰する見方で、戦略的・地政学的視点ともいえる。 今後は、日本的視点でかたちづくられ、あるいは評価されてきた日米同盟をめぐる仕組みや思考様式を、これまでの歴史も含めて第三者的視点から点検していく必要がある。日本的視点と安全保障の現実とのギャップをあぶり出し、そのようなギャップを埋めていく努力をしていかなければならない。 ※本記事は、千々和泰明『日米同盟の地政学 「5つの死角」を問い直す』(新潮選書)に基づいて作成したものです。
デイリー新潮編集部
新潮社