「忘れつつあるんです…」17年前のベストセラー『ホームレス中学生』を田村裕が回顧
◇一時的にお金持ちになれたし身の丈にあった人生 川島とのエピソードが出たところで、これまでの芸人人生について聞いた。 「身の丈にあった人生です。お金持ちになりたい、女の子にモテたい、人気者になりたい、お母さんのことを世に広めたい、お父さんを見つけたい。大きな目標を掲げて、この世界に入って、川島くんと出会い、頑張ってきました。 結局、平均にしたら大したことないけど、お金持ちになりたいは一時的には叶ったし、モテたいも叶ってはいないけど、奥さんと出会うことができた。お母さんのことも“素晴らしいお母さんですね”とたくさんの人に言っていただけたし、お父さんも見つけることができたし、人気者にもなれた。お笑いやりたいと思って掲げたことは、これまで全て叶ってるんです。 もっとお金は欲しかったし、もっとモテたかったし、もっと人気者になりたかった。でも、身の丈にあっているなと。実際、もっとお金があれば、それに溺れていたと思うし、調子に乗って嫌味なヤツになっていたと思う。モテたとしても、その体験が忘れられず、週刊誌にしっかり撮られて、身を滅ぼして、せっかくできた奥さんの存在を逃していたでしょうね。 自分の人気を考えても、身の丈にあってると思ったときに、“ええ人生やな”と思ったんです。それこそ中学生の頃は“世の中にこんなに不幸な人間がおるんか! しんどすぎるやろ!”と思う日々でしたけど、平たく見たら身の丈にあっている。 一つひとつ楽しいし、幸せだし、ないものはたくさんあるけど、あるものもすごく多い。だから楽しい人生やなと思います。なんかこんなことを話すと、もう死んでいくみたいですけど(笑)」 凄まじい経験をしながらも、幸せを手に入れることができた田村。ひとつ気になったのは、彼の子育て術。田村は今どのように子どもと接しているのだろうか。 「人とはズレているかもしれないですね。あんまり頑張ってないというか、いや頑張ってはいるけど責任は感じてない。何かあっても“勝手に生きや”って思ってるんで。すごく気楽に向き合っています。 放任とまではいかないけど、最終的には知らんでという無責任感はある。だから、“あそこまでいろいろ言っておいて、最終的には責任を持たなかったな”って、子どもが大きくなってから思うかもしれないです。“気をつけろ”と言うわりには最終的には好きにしいやって感じだから。 でも僕自身、子育てが楽しいし、こんなに難しすぎるものもないですよね。世の中にはいろんな趣味があると思うけど、子育てなんか最高の趣味ですよね。愛情があればハマり続けますから一番楽しい遊びです!」 そんな田村が子育てで大事にしていること、それは壁にぶつかったときはプロに聞くということ。親は子どもの意思を尊重しながら、サポートをしてあげていくことで伸びる。これは田村が大好きなバスケットボールの現場でも感じることだと言う。 「この春からバスケットスクールを合計10校、運営することになるんですけど、そこで感じていることは、子どもより親がめちゃくちゃ熱を入れている家庭って、子どもが育ちにくいんですよ。放任しているところのほうが伸びます。一番いいのは放任して、サポートをしっかりすること。 そして、プロに任せるのが一番伸びる。プロの方は教え方も違うし、壁にぶつかったこともあるから、説得力があるんです。もちろん、親は補助輪をつけてあげないといけないとは思うし、そこは意識しないといけないんで難しいんですけどね。ただ、親の熱量は低いほうがいい。“ガワ”を整えてあげることを意識したほうがいいんです。 ◇まだ芸人としては死んでいない なるほどと思う田村の子育て術。バスケの現場から学ぶことも多いようだが、バスケ芸人として確固たる地位に上り詰めた田村が、そのバスケを生業にしたキッカケとは? 「単純に僕がバスケがしたかった(笑)。だから、まずは奥さんを説得しないといけないというところから全てが始まった感じです。自分が体を動かしてバスケをすることで、撮影で活躍できる、言葉に説得力、バスケの解説に説得力が出てくる、全てが仕事につながるからと。 だからこそ、そのために動き続けてるほうがいいんだ! そう奥さんに納得し続けてもらうために、バスケの仕事でなんとしてもお金を生なきゃいけなかったんですよ。ただバスケして遊んでるだけやったら、“お笑いの仕事せえや!”になっちゃうから。後輩との出会いがあって、そこから最終的にスクールにたどり着いたんです」 現在は、YouTubeチャンネル『麒麟田村のバスケでバババーン!』や、TOKYO DIMEという3x3バスケットチームの共同オーナーなど、「週8でバスケをしている」というのが嘘ではないくらいバスケ漬けの毎日を送る田村。 「バスケの魅力は、誰もが活躍する可能性のあるスポーツだということです。誰もが点を取れる可能性があって、それこそ上手い人のなかに素人が入ったって、ボールがリングにさえ届いて、お膳立てしてもらえれば、点を取れる可能性がある。 バスケにはスポーツの醍醐味が全て詰まっていると思うんです。速さで目立つこともあるし、テクニックの見応え、パワーのすごみとか。ゴール下なんて格闘技並みにやり合いをしてますしね。コートが狭い分だけ、とっさの判断と戦術理解度という、バスケIQというところの見栄えも面白い。バスケファンのなかには、戦術を理解しながら楽しんでいる方も多くいらっしゃいます。 あとは会場の小ささ。経営という面で考えると、他のプロスポーツと比べて、お客さんを多く入れられないのはデメリットでもありますけど、それだけ選手との距離が近い。選手やコーチの声が聴こえる、選手の汗やボールが飛んでくるかもしれない、このハラハラたるや、とんでもない魅力です」 最後に、今後の目標について聞いた。 「このまま終わるのはイヤだから、もう少し、この人も芸人なんだなと思ってもらえるように、世の中に発信したいなと思って生きています。この前は、麒麟でもトークライブをやって、ネタも披露しました。 今も、お笑い番組を見てストレートには笑えないので、まだ芸人としては死んでいないなって。この気持ちがあるかぎりは、まだまだ芸人として戦えているのかなと思っています」 (取材:笹谷 淳介)
NewsCrunch編集部