ネットフリックス『ザ・ユニオン』で再注目! マーク・ウォールバーグの成り上がり人生ストーリー(1)
ハリウッドスターの多くは最初から俳優を目指し、困難に打ち勝って、あるいは超ラッキーな出会いなどで、その夢を叶えた人たち。しかし中には、別の仕事から転身して、俳優業で大成功を収める者たちもいる。このパターンで目につくのは、格闘技系の出身者。ザ・ロックのリングネームで知られたドウェイン・ジョンソンを筆頭に、デイヴ・バウティスタ、ジョン・シナなど次々と映画界に進出。自慢の肉体と格闘能力でアクション映画における需要に応えている。時代をさかのぼれば、あのアーノルド・シュワルツェネッガーもボディビルダーから俳優になった。 もうひとつの“転身組”で目立つのは、ミュージシャン。映画と音楽の業界は密接につながっているので、古くはエルヴィス・プレスリーのような例から、マドンナらを経て、ビヨンセやジャスティン・ティンバーレイク、レディー・ガガなど俳優としても才能を開花させるパターンを何度も目にしてきた。表現者、アーティストとして共通項もあるからだろう。ただその多くは、音楽と俳優業を両立していたりもする。ミュージシャンから転身し、ほぼ完全に俳優が“専業”になった人では、ウィル・スミス、そしてマーク・ウォールバーグが挙げられる。ハリウッドスターとしての現在の活躍によって、彼らが元ミュージシャンであることを忘れた、あるいは知らなかった人も多いのでは? マーク・ウォールバーグは、1993年にTV用映画で俳優デビュー。その2年前の1991年、彼はビルボードのシングル・チャートで1位を獲得している。マーキー・マーク&ザ・ファンキー・バンチの『グッド・ヴァイブレーションズ』だ。マーキー・マークは、マーク・ウォールバーグのミュージシャン名。当時、彼はヒップホップ界で頂点を極めていたのだ。兄のドニー・ウォールバーグも、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックのメンバーとして有名。マークは、そのニュー・キッズの前身であるナヌークの時代に参加していたが、ニュー・キッズがデビューする前に脱退し、ドニーのプロデュースによって自身のヒップホップ・グループを結成した。ステージ上で下着姿になることも多かったため、その後、カルヴァン・クラインの下着モデルとしてセンセーショナルな話題を集めたマークは、俳優に転身するとあっさりミュージシャンの仕事をストップ。ある意味、本気で演技にかける意気込みを示したわけで、その潔さがハリウッドでの成功につながった。 俳優デビューから約30年。2024年の最新作ネットフリックス『ザ・ユニオン』でも主役を演じるなど、トップスターとしての地位は揺るがない。しかも、その『ザ・ユニオン』の役どころは、マークの俳優としての持ち味が最大限に生かされており、他のスターに差し替え不能なほど! プロデューサーも兼ねているマークは、自身の魅力をしっかり理解して新作に挑み続けているのだろう。 『ザ・ユニオン』でマークが演じるのは、建築現場で働くマイク。ティーンエイジャーの頃に恋人だったロクサーヌと再会するが、彼女は“ザ・ユニオン”と呼ばれるスパイ組織のメンバーで、 眠らされた間にアメリカのニュージャージーからロンドンへ連れて来られたマイクは、スパイとしてのトレーニングを短期間で受け、危険なミッションに参加することになる。トム・クルーズの「ミッション:インポッシブル」シリーズを意識したシーンなどもあり、アクションエンタメとして楽しい一作。マークとロクサーヌ役のハル・ベリーとの相性もバッチリだ。 “巻き込まれた”男が、じつはスーパー級の能力を秘めていた……というのは、まさにマーク・ウォールバーグのハマリ役。このマイク、母親や仕事仲間からは“マイキー”と呼ばれ、このあたりもミュージシャン時代の“マーキー・マーク”を思い出させたりして微笑ましい。マイクは中学時代に自分を教えていた女性教師(もちろん、かなり年上)と恋愛関係にあったりと自由なキャラ。マーク・ウォールバーグ本人と同じ年齢設定なら50代なのだが、キャップを前後逆に被る姿も様(さま)になっている。肝心な時にポカをやりつつ、信じられない機転を利かせ、ピンチを救うというマイクの役割は、マーク・ウォールバーグのこれまでのキャリアの集大成のようでもある。 マーク・ウォルバーグが確立してきた俳優としての魅力は、完璧なヒーローを演じる時も、いい意味でのツッコミどころがあったり、人間的な脆さが滲んで思わず同じ目線で共感できてしまうところ。正統派のアクション大作からシリアスな人間ドラマ、そしてコメディに至るまで、出演作で演じたキャラクターには多かれ少なかれ、そんな特徴が感じられる。自身の魅力をプロデュースしてきた立場とはいえ、最新作の『ザ・ユニオン』のマイク役はマーク・ウォールバーグにあまりに似合い過ぎている。これは観れば納得! ※マーク・ウォールバーグの成り上がり人生ストーリー(2)に続く。
文=斉藤博昭 text :Hiroaki Saito