THE BEAT GARDENが語る、ドラマ主題歌が「俺たちの曲」になるまでの過程
(書き下ろしは)役づくりに似ている
―ここからは、「わたし」についてお伺いさせてください。今作はドラマ『あの子の子ども』への書きおろしですが、オファーを受けたのはいつ頃でしたか。 U:メロディを作り始めたのは、4カ月前くらいかな。 MASATO:納品してから、ドラマが始まるまでのスパンが短かったよね。 U:短かった! まずはマンガを読ませていただき、メロディを作り始めて。制作から1ヶ月くらいでメロディが決まり、その頃には5話までの脚本が届いたので、脚本を読ませていただき歌詞を書いていきました。 ―オファーは、どういった内容だったんですか。 U:高校生がテーマになっているドラマなので、高校生が合唱できるような曲。校舎のなかで流れているような、温かさのあるミディアムバラードかバラードといった感じでした。 ―YouTubeで放送しているWEBラジオ『THE BEAT GARDENの夜顔』で、MASATOさんが「自分の思う命というものは、こっちかもなって思って」とお話されていましたが、ドラマ側から「命をイメージした曲」とオファーがあったわけではないんですね。 MASATO:ドラマのストーリーが予期せぬ妊娠なので、それをどういうふうに捉えるかという面で不安がありました。単純なハッピーではないし、だからといってアンハッピーに捉えるわけにもいかないし。だから、“命”というテーマを設けて制作を始めていったんです。そしたら、出てきたメロディがどの部分も同じように温かいトーンで。授かる命も自分の命も、自分にとっては温かいものなんだなと思えて、「僕はこう思う」って振り切ることができました。自分のなかで描いていたメロディのプロットをもとに、心臓の鼓動音をいれたりもしてるんですよ。また、いつもだと3ボーカルで間髪入れずに歌い上げるような構成にするんですが、今回はBメロでアレンジを聴いてもらえるようにしています。けっこうそこは、勇気がいりましたね。シンプルにするのって、勇気がいるんだなって。 U:引き算だもんね。 MASATO:そうなんですよ。アレンジに関しては素人なので、イメージをアレンジャーのKOHDさんに伝えて。素人ならではのリクエストをすごく面白いと捉え、チャレンジしてくださったので、いいパッションのアレンジャーさんに出会えたと思っています。 ―REIさんは『THE BEAT GARDENの夜顔』で、KOHDさんのアレンジを絶賛していましたよね。 REI:J-POPで音数を少なくして洋楽のテイストもいれるのって、バランスがすごく難しいというか。3ボーカルの僕たちがJ-POPたるサウンドでJ-POPを作ると、かなりいなたくなるだろうし、1つ1つのフレーズやアプローチの仕方も含めて、すごいなって。もともと僕が、KOHDさんの作るトラックが好みっていうのもあるかもしれないんですけど(笑)。ステージ上でピアノやギターを弾く姿をInstagramの投稿で拝見して「やっぱり多彩なかたなんだな。いろいろな楽器を理解しているからこそ、こういう組み立てができるんだろうな」と思いました。また、今回は作品だけの関わりでなく、みんなで仲良くなれたのもよかったですね。その空気が「わたし」にも表現されていると思います。 ―アレンジに関していうと、サビの裏で鳴っているコーラスが印象的でした。 MASATO:あれ、宅録りした僕の声なんですよ(笑)。デモの段階でコーラスも乗せていたら、KOHDさんが「この雑味を活かしたほうが面白いと思う」と言って、デモで出したパラデータをそのまま乗せてくれました。 ―歌詞は、どのようなことを意識しましたか。 U:それこそ、最初は命とか。作品がセンセーショナルなので、僕のなかのテーマもちょっと重ためになっていたんですよね。そういった内容の歌詞をドラマさんに提出したら、「高校生とかに温かい未来だって待っているんだよって伝えたい。いいタイミングでTHE BEAT GARDENさんの曲を流したいんです」と言ってくださったんです。なので、ドラマを観てくれた人や幸と宝が、明るいほうへ向かっていけるようなポジティブな内容に書き直しました。また、歌詞が聴きとれなかったとしても言葉はわかるように、難しい語句は思い切って排除。高校生が「えっ?」ってなる言葉は使わないようにして、学校感が出るように“A4”や“放課後”といった単語を入れていきました。 ―『THE BEAT GARDENの夜顔』で「THE BEAT GARDENから離れていくことをすごく意識した」とお話されていましたが、それも高校生への伝わりやすさに配慮したからなのでしょうか。 U:もっと高校生らしくするためには、自分の経験は排除したいというか。フィルターをなくして、自分を通さずに書きたかった。主題歌の歌詞に、自分たちらしさはいらないんじゃないかと僕は思っていて。そもそも僕が作った曲をREIとMASATOと分担した時点で、端的にいえば3つに薄まっているんですよ。でも、それがTHE BEAT GARDENなんですよね。だから、ドラマさんから与えられたテーマを精一杯に表現すればTHE BEAT GARDENだし、もしかしたら新しいTHE BEAT GARDENになるかもしれないし。実際に「わたし」を書き終えてみると、結果として「俺のことだ」と思えたので、やっぱりTHE BEAT GARDENになるんだという気づきをもらいました。 ―ドラマ『アイのない恋人たち』の主題歌「present」のときも、同じようなお話をされていましたよね。「(メインキャラクター)7人のために書いたのに、めちゃくちゃ俺たちのラブソングに着地してくれた」と。 U:そうなんだと思うんですよね。実体験を上手に活かして、ドラマさんに寄り添える歌詞を書かれるかたもたくさんいると思うんですけど、僕はそうじゃなくて。ちょっと役づくりに似ているというか。幸と宝を思いっきり自分のなかに取りこんでから出すことで、後から自分らしさが滲み出ていくみたいな感じなんです。 ―となると、制作時は作品に100%寄り添っている感覚ですか。 U:120%、なんなら180%くらいです、僕は。自分たちらしさなんていらない。そう思って制作をしても、今まで何回か主題歌をやらせていただくなかで「もっとTHE BEAT GARDENっぽくやってほしい」と言われたことはないので、らしさは勝手に出てるのかなって。プロデューサーさんや監督さん、キャストさんに、キラキラした目で「よかったです」と言ってもらいたい。それだけです。 MASATO:たしかに“THE BEAT GARDENらしさ”って、そういう順序で作られていくのかもしれないですね。自分を振り返ってみても、制作しているタイミングでは「俺たちってこうだよな」って一切考えてない。3人で歌うことでTHE BEAT GARDENらしさになるんだったら、それが正解かなって。 REI:出来上がったものが、結果的に「THE BEAT GARDENだな」っていうふうになってるからね。 ―作品に100%寄せたとしても、この3人で表現すればTHE BEAT GARDENの曲になるから、ライブなど作品とは離れたところで披露する場面でも大丈夫だと。 U:他の作家さんが作詞作曲した曲で、僕らがドラマに100%合わせて歌だけ録るってなったら、THE BEAT GARDENらしくなるか不安はあります。でも、メロディを作って、歌詞を書いてってした時点で、僕ららしくならないはずがないから。ライブに関していうと、曲はお客さんのなかで育つものだと思うんですよね。俺らがどう歌おうと育てるには限界がある。合ってるか合ってないかわからないような英語のスラングを混ぜた曲でさえ、涙を流してくれる人がいたっていう事実があるから。ライブはみんなを信頼して、任せてる感じですね。精一杯僕らは演奏するので、受け取ってくれたみんなのなかで、それぞれの形になってくれたら嬉しいです。 ―だからこそ、主題歌を担当するときは、作品の世界観を180%でやりぬくと。 U:マジで100回でも書き直しますよ。「これはちょっと違うんで変えて欲しい」って言われるのが、僕はすごく嬉しいんです。本当にストレスがない。自分のことを書くよりも書きおろしのほうが、圧倒的に楽しいんですよね。めちゃくちゃ苦しいんですけど。思ってないことを言ってくれるから、100倍楽しい。 ―今までとは違う引き出しが開くんですね。 U:はい! 「そこは、たしかに書いたことない」みたいな感じが、すっごい楽しい。だから、何回も書き直してる感覚も、そんなにないかな。 ―先ほどの「主題歌を担当するときは180%で作品の世界観に寄り添う」というのは、THE BEAT GARDENの主題歌を担当するうえでの矜持みたいなものだと思うのですが、主題歌の制作で他に意識していることはありますか。 U:書き始めかたが、僕はけっこう違うかな。主題歌じゃないものは、何を言っても「俺の曲だし」って言えるじゃないですか。でも、主題歌になると登場人物が言ってはいけない言葉っていうのが、絶対にあるんですよ。たとえば「わたし」だったら、宝と幸が使わない言葉を書いてはいけないという枠が僕のなかにある。脚本のセリフにはないけど使いそうな言葉を生み出せたときは、すごく嬉しいですね。そういうのを探すのが楽しいかな。 ―「present」のときも「(メインキャラクターの)7人が言わない言葉を使ってはいけない」とお話されてましたもんね。 U:言うことがないくらいになってくるんですけどね(笑)。一番考えているのは、言わないことかもしれないです。 REI:僕は基本的に歌詞を書かないので、歌詞にならないスキャットやラララでいろいろ紡ぐんですけど。今回はマンガを読んで、そのセリフから曲を作るとどうなるんだろうと試していました。あとは、作品のエキスがデモに反映しないかなと思って、作業机にマンガを置いてみたりとか。 MASATO:僕は全く変えないですね。全部同じです。しいていうなら、プロデューサーさんや監督さんが共有してくださるメモを見返すようにしています。わりと想像力が豊かなタイプなので、気づいたら変なところへ向かってしまうことがたまにあって。でも、本当にそれくらいで、主題歌でやりかたを変えるような器用なことはしてないかもしれないです。 ―「わたし」がリリースされたばかりではありますが、すでに次の曲の制作に取り掛かっていたりもしますか。 U:曲はめっちゃ作ってますよ。僕はどんなに疲れて帰っても、寝る前に必ず1曲は作るようにしてて。最近だと、冬のラブソングを作りました。夏に冬の曲を書くのが、けっこう好きなんです。あとは、みんなが「歌いてえ」と思って歌えるフレーズってなんなんだろうって、電車のなかとかでずっと考えています。それがいつ生まれてくれるのかは、まだ全然わからないんですけどね。 「わたし」 THE BEAT GARDEN ユニバーサルシグマ 配信中
Ayaka Sakai