高級車窃盗ツール『GAME BOY』…被害増加中の「恐ろしすぎる性能」と「専門家が語る防犯対策」
3月8日発売の「FRIDAY」にて初めて紹介した通称『GAME BOY』と呼ばれる“最恐”の自動車窃盗ツールが猛威を振るっている。4月半ば頃から被害報告が増加し続け、最近では、参議院議員の三原じゅん子氏が自身のランクルを同手法で窃盗されたとSNSに投稿し、大きな話題となった。 【画像】お、恐ろしい…ハンドルを切断してロックを解除…自動車窃盗団の「悪質手口」現物写真 改めて、『GAME BOY』とは一体なんなのか。なぜ“最恐”のツールと呼ばれているのか。3月上旬以降、判明した事実などを加えて改めて紹介しておきたい。その特徴は以下のようにまとめられる。 ・正式名称はキーエミュレータと呼ばれる。最初はトヨタ・レクサス用のみ『GAME BOY』の愛称がつけられていた。名前の由来は1989年に任天堂が発売した『ゲームボーイ』に酷似しているためといわれている。 ・近年の自動車窃盗で使用されてきた『CANインベーダー』と違って、車にまったく傷をつけずに盗むことができる。 ・対象車種によって種類があり、価格は1万~3万ユーロ(約160~480万円)。 ・車のドアハンドルを動かしたときに出る信号を読み取って解析。数分~40分前後で同じ電気信号を出すスマートキーのスペアを作ることができる。 ・1台で20台分のキー情報がメモリできる。 もっとも恐ろしいとされる理由は、車にほぼ触れることなく、短時間で、その場でスぺアキーを作って盗めてしまうことだ。スペアキーを作る(=解析する)作業は車から数十メートル離れていても可能。つまり、ドアハンドルをガチャガチャ動かしている数秒間に何らかのセキュリティが働いてオーナーに通知が届き、オーナーが気づいて車を見に来たとしても窃盗犯の存在に気づくことはまずない。オーナーは「セキュリティの誤作動」だと思って自宅に戻ってしまうだろう。その間に解析してスペアキーを作り、やすやすと盗んでいくというわけだ。 また車に損傷を与えない点も大きい。今までの窃盗機器としては『CANインベーダー』と呼ばれるツールが主流だった。ヘッドライトやフロントフェンダーを無理やりこじ開け、車のCANバスに直接配線を繋ぐことでコンピューターにアクセスする。しかし、『GAME BOY』は前述の方法でキーを作れるため、全く傷がない。SNSなどでは「なぜ『GAME BOY』の犯行と断定できるか」という声が散見されるが、外傷の有無を確認すれば、簡単に見抜くことができる。 この数ヵ月で大きな影響を及ぼしている『GAME BOY』。その作成理由は、世界的な人気車種であり、闇市場で高値取引されるランクルやアルファードなどを窃盗するためだ。両車種の製造元であるトヨタは、‘22年の終わり頃からCANインベーダー向けの純正セキュリティシステムの導入を始めた。住友電工製のこのセキュリティシステムは、正しい信号だけを通し、CANインベーダーから流し込まれる不正な信号をシャットアウトして不正なドア解錠やエンジン始動を抑止する。 これがライン装着されるようになった’22年11月以降製造のランクル300や’23年5月発売の40系アルファードなどは、従来のCANインベーダーでは盗むことが困難となった。そこでCANなどまったく関係なく盗めて、さらにスペアキーと同等の機能を作成できる『GAME BOY』が開発された可能性が高い。 ただし、残念なことに、このトヨタセキュリティシステムに対応したCANインベーダーツールも最近になって発売されている。値段は2万6000ユーロ(約420万円)と、最も高額な『GAME BOY TEK』(約480万円)よりはやや少し安め。CANインベーダーではあるが、スペアキー作製機能も備わっている。 軽く触れるだけで、1時間以内にキーを作成でき、キズもつけない。そんな『GAME BOY』の脅威から愛車を守るためにはどうすればいいのだろうか。 確実に守るためには、やはり有名セキュリティブランドの製品をベースに、『GAME BOY』で作製したスペアキーではエンジン始動できない「キーレスブロック」「キーレス連動オフ」などと呼ばれるエンジン始動の別系統システムをオプションで装備することが有効とされる。しかし、これらは30~40万円と高額なうえ、犯罪の高まりを受け、取付けの予約が殺到。最も混雑しているセキュリティショップでは来年3月以降にならないと取付けができない状態だ。また、製造元にも確認したが製品自体が品薄状態で取付店への出荷も困難な状況だという。 とはいえ、毎日のように盗まれている状況ではオーナーは心配でたまらないだろう。そこで、比較的早く取付けができ、また安価で『GAME BOY』対策済みの社外セキュリティを紹介したい。高価なものもあるが、『GAME BOY』は従来の対策が全く通じないツールであり、本当に愛車を守りたい場合は、安心できるブランド品の装備をおすすめする。 KaKaRUN (K2 auto factory) 燃料を遮断できる装置。オーナーとK2社しかわからない専用の起動装置を車内にセットし、そこから起動させない限り、エンジンが始動しない。そのため、たとえ『GAME BOY』でキーを複製できたとしても、発進させることができない。価格は税込2万9700円~6万6000円(取付工賃含む)だ。 Argus D1 (ユピテル) 自走盗難対策に特化し、『GAME BOY』にも有効。税込9万9000円(基本セット+取付工賃含む)。 タイヤガード (有限会社 錠商) 金庫職人が作った鋼鉄製タイヤガード。従来のタイヤガードよりも高い硬度を誇り、これまで3000台以上も販売したなかで、破壊されて盗まれたことは一度もない。価格は10万円前後(取付工賃含む)。 なお、警察庁やトヨタディーラーが推奨するハンドルロックやタイヤロックなどの簡易なセキュリティグッズはまったくといっていいほど効果はない。ハンドルロックを切断する道具は高性能化していることに加えて、ハンドル自体を切断するなどして外す方法もあるからだ。またタイヤロックは構造上、海外製の頑丈なタイプであっても装着したまま走行してタイヤを1回転させれば簡単に破壊される。ランクル300などパワーと重量のある車なら、なおさら破壊は簡単だ。 進化を続ける窃盗団の卑劣な手口から愛車を守るためには、オーナーの意識もアップデートしていかなければならない。 取材・文・PHOTO:加藤久美子
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