名馬タイトルホルダー生産者・岡田スタッド代表の岡田牧雄氏が明かす「凱旋門賞」参戦の舞台裏
今週の中央競馬GⅠは上半期を締めくくる宝塚記念で、2年前のこのレースを制したのがタイトルホルダーだ。勝ち時計2分9秒7はコースレコード。菊花賞、天皇賞・春に続く3つ目のGⅠタイトルを獲得したことから、その年の秋は凱旋門賞に参戦した。世界の頂点を目指す決断の裏には、紆余曲折があった。生産した岡田スタッド代表の岡田牧雄氏に聞いた。 【写真】女優・田中道子さんが語る競馬愛 生来の“穴党”は食費を削ってレースに挑んだことも ◇ ◇ ◇ 2018年2月10日に岡田スタッドで生まれた牡馬のタイトルホルダーは、母メーヴェとの離乳を終えて育成が行われると、デビュー前から異彩を放っていた。 「中期育成で夜間放牧に出すと、まったくへこたれずにヘッチャラという感じでした。並の馬だと数日でどこか痛いところが出てくるけど、そんなことはなく平然としていたから走るだろうなという手ごたえがあった。それが確信に変わったのが本格的なトレーニングを行うようになってからです。2歳春になってウチの坂路を2本追ってもケロッとしていて、まったく息が上がらない。心肺機能がズバぬけていました。こんな馬は初めてでしたが、母メーヴェから長距離適性を受け継いだのでしょう。2歳3月の時点でスタッフとは、『菊花賞と翌年の天皇賞・春を絶対に取る』と誓い合っていたんです」
“誤算”の弥生賞勝利で想定外の3歳王道へ
母メーヴェは、4連勝で英ダービーを制したモティヴェイターを父に持つ英産馬だ。半姉メロディーレーン(父オルフェーヴル)は1勝クラスを勝ち上がると、菊花賞に挑戦して⑤着に善戦。ステイヤーぶりを見せつけた。2番仔のこの馬はドゥラメンテとの配合だけに、陣営に伝統の長距離GⅠを強く意識させる。20年10月、中山で芝千八のデビュー戦を快勝すると、GⅢ東スポ杯2歳Sで②着と賞金加算に成功し、GⅠホープフルSも④着。クラシックに望みをつなぐ結果を残す。よもやの“誤算”が3歳春初戦の弥生賞だったという。 「馬主の権利を半分ずつ持つ山田(弘)さんと描いたプランは、『3歳春までは無理せずに菊花賞を目指そう』というもので、当初は皐月賞もダービーもパスする予定だったんです。でも、弥生賞を勝ってしまったら、皐月賞に向かわないわけにはいかないでしょう。続く皐月賞も②着。そうすると、やっぱりダービーへということになる。あの弥生賞が④⑤着だったら、馬に無理させることなく、菊花賞に向かえたと思うんです」 クラシック2戦の後は北海道に戻って充電。牧場に戻った当初は、激戦の疲れが見えたという。 「ウチは、育成期だけでなく、現役の馬も夏に牧場に帰ってくると、夜間放牧を行います。ダービー後のタイトルホルダーはこちらでも当初はテンションが高く、1週間たっても気持ちが変わりませんでした。それで夜間放牧をやめようか悩んだ結果、とりあえず1週間継続。するとテンションが落ち着き、体が増えてきました。結局、3週間続けたところ、見違えるほど状態が良くなったんです。この馬の成長期でした。そこからトレッドミルに入れて、菊花賞に向けて鍛え直すと、2歳3月の時点で思い描いたように、馬体が充実してきたんです」 セントライト記念は展開も進路も厳しくなり、⑬着と惨敗。それでも狙った本番の菊花賞は、自信があったという。 「敗戦のダメージは癒えていたし、何より夏の成長です。素晴らしかった心肺機能はさらに高まっていましたから、騎手には『折り合いだけ気をつければいい。自信を持って乗ってくれ』と話しましたから。実際、スタートからそのまま逃げ切りですから強いレースでしたよね」 ファン投票3位の後押しもあって出走した有馬記念は⑤着。3歳最終戦を終え、4歳は2つ目の目標である天皇賞・春に向けて歩み出す。前哨戦の日経賞をロスの少ない競馬で勝ち切ると、迎えた本番は②着ディープボンドに7馬身差をつける楽勝で菊花賞馬の貫禄を示した。 セイウンスカイ以来23年ぶりとなる菊花賞の逃げ切りVも春天も、舞台はどちらも直線で2度の坂越えがある阪神だ。心肺機能とステイヤー性能の高さは陣営の見立て通りで、岡田氏の相馬眼の鋭さを示している。