『薬屋のひとりごと』『【推しの子】』『水星の魔女』 大塚剛央が2023年に大ブレイク
先が読めない関係性こそが一番面白い。そんなエンタメの本質を体現しているのが、放送中のTVアニメ『薬屋のひとりごと』である。この作品が描いているのは、中世の宮中で起こる様々な謎を解き明かしていく少女・猫猫の活躍だ。 【写真】園遊会用の服装をした猫猫に手で触れようとする壬氏 物語の核となるのは毒味役を任された猫猫の魅力だが、その魅力をさらに引き立てるのが後宮で強い権力を持つ宦官・壬氏(ジンシ)だ。その絶世の美貌と人々を惹きつける振る舞いは、彼がもし女性であれば国をも揺るがす美女となっていただろうと言われるほど。その中性的な甘いマスクは、「壬氏がいるだけで画が映える」といっても過言ではない。 『薬屋のひとりごと』の面白さは、そんなイケメン宦官を、薬にしか興味がない猫猫が振り回すところだ。宮廷ファンタジーにおいて、侍女と宮廷内で高い地位を持つ男性のカップリングは鉄板だが、本作では壬氏と猫猫の絶妙な距離感が視聴者を惹きつける要素の一つとなっている。恋に発展するのか、しないのか……。そんな曖昧な距離感に、つい次回の展開が気になってしまうのだ。 猫猫は壬氏を嫌ってはいないものの、彼の好意を邪険に扱う。ことごとくへし折られる恋愛フラグは、宮中の重々しい空気の中では珍しいライトなラブコメ的要素としても楽しい。そして何より、普段は美しく頭の良い完璧な宦官である壬氏が、猫猫といるときは少し子供っぽさすらある素直な態度を見せるのである。第5話「暗躍」からは園遊会編に突入し、着飾った猫猫の美しさに壬氏の心が動いた様子。彼が猫猫に渡した“かんざし”は一体何を意味するのだろうか。 『薬屋のひとりごと』において、壬氏の魅力をさらに際立たせているのは、声優・大塚剛央による卓越した声の演技である。大塚といえば、2023年の春に放送された『【推しの子】』では、星野アイの双子のひとりであるアクア役を担当し、その名を世間に轟かせた。劇中劇のようにアクアが“演じる”シーンも多かった印象だが、絶望滲むシリアスなシーンからコミカルな日常パートまで大塚は見事に演じ切っていた。 その他『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のラウダ・ニールや『風が強く吹いている』の蔵原走、『もののがたり』の岐兵馬、『AIの遺電子』の須堂光など、幅広いキャラクターを演じ分ける力を持つ大塚。今回の『薬屋のひとりごと』は作品のファンはもちろん、大塚のファンにとっても見逃せない作品であることは間違いない。 高校生時代から声優の仕事に興味を持ち、大学卒業後に日本ナレーション演技研究所に進学した大塚は、2018年の『風が強く吹いている』でTVアニメ初主演を果たし、その才能を開花させる。驚くべきは、これが『【推しの子】』での活躍に至るわずか5年前という点だ。この短期間に、『Dimensionハイスクール』の緑ヶ丘流星役、『NOBLESSE -ノブレス-』のタキオ役、『魔王城でおやすみ』のポセイドン役、『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』のリオン・フォウ・バルトファルト役を演じ、実力派声優としてのキャリアを拓いてきた。 そして2020年には、その新進気鋭の才能が「第十四回声優アワード」の新人男優賞受賞という形で高く評価された大塚。『薬屋のひとりごと』での壬氏という重要な役どころを任されたことは、大塚が声優としてのキャリアを着実に積み重ねてきた証しでもある。大塚の柔らかく落ち着きを感じさせる“お兄さんボイス”が、壬氏というキャラクターにさらなる深みを与えているのは疑いようがない。大塚は、まさに今後の声優界でのブレイクが期待される注目の声優といえるのではないか。 大塚演じる壬氏は、猫猫のハートを射止めることができるのか。2人のもどかしい関係性に、つい“ひとりごと”を言いながら視聴してしまうのは、私だけではないはず。猫猫との関わりの中で、あの鉄壁のような爽やかな笑顔が崩れる瞬間をぜひ観てみたいものだ。
すなくじら